【63】野球界の健全化 ベースボールのルーツにもあった賭博行為への警鐘

 「日本高野連理事・田名部和裕 高校野球半世『記』」

 今年の野球シーズン開幕前にプロ野球で、再度の違法賭博や麻薬常習事件が発覚、水を差された。

 清原選手をはじめ有害行為として処分された巨人軍選手には、甲子園でも活躍した選手もいた。野球関係者はもとより一般の野球ファンも失望させた。

 今から47年前にもプロ野球で「黒い霧事件」があり、八百長に関与した選手6人が永久追放処分を受ける不祥事があった。1969年の出来事で、当時僕が連盟事務局に入って2年目のことだった。

 事件に関与した選手の出身校S校のK校長から佐伯達夫会長(当時)に手紙が届いた。毛筆で巻紙に書かれたもので、佐伯さんは僕にも読みなさいと手渡された。内容は「卒業生が野球界を震撼させる大変な事件を起こし、慙愧に堪えません。何とお詫びしてよいか言葉がありません」と切々と謝罪の言葉が書かれていた。

 佐伯さんは、「卒業して何年たっても恩師というものはこうして心配してくれる。忘れてはいけない」と逆に恩師へ気づかいをされていた。

 話は変わるが、1858年に全米野球機構の初代ルール委員長に就任したヘンリー・チャドウィック(H.Chadwick)という人がいる。新聞記者で、ベースボールの草創期にボックススコア(打安点などの成績を数値化した)を考案したことで殿堂入りしている。

 チャドウィックは新聞記者として「もしベースボールを新生アメリカの国技にするなら絶対に賭博の対象にしてはならない」と生涯キャンペーンを展開したことでも知られる。

 高校野球選抜チームが99年に初めて米国東海岸に遠征した時、あこがれのクーパーズタウンにも足を延ばした。桐生第一高校が初優勝した時だ。米国の球史に触れた後、ニューヨーク中心街のマンハッタンから南に20キロほどのブロンクスにグリーンウッドセメタリーという大きな墓地公園を訪れた。

 チームに同行した作家の佐山和夫先生の提案で、チャドウィックのお墓にお参りした。2メートルくらいの石柱の上に丸い球体の石を乗せたお墓は遠目にもすぐ野球関係者の墓と分かった。

 墓前で佐山先生は故人の功績を選手団一行に説明して下さった。

 「チャドウィックの努力でベースボールは賭博の対象とならず、健全な米国の国技となった。さもなくば明治5年、明治政府のお雇い教師、ホーレス・ウイルソンによって日本にベースボールが紹介された時、学生の間で行われることはなかっただろう」と。

 昨年、横浜高校の監督を勇退した渡辺元智さんは「高校野球は教育の一環だから、人格の育成も並行してやっていかねばならない。勝つためにだけ指導しているとどこか落とし穴ができてしまう。人間的なところもしっかりしてくれば元々高い技術を持っている選手はさらに大きく伸びる」と断言する。

 また私の大学の後輩、大阪桐蔭高校・西谷浩一監督は「3年生は、部活動が終わると寮生活から自宅からの電車通学になる。途端に公共的なマナーが問われる。今までの縛りが無くなり、よほど自覚を持って生活しないと落とし穴にはまってしまう」と共に落とし穴への警戒を口にした。

 清原選手の「野球が終わった時、何もすることがなかった」というのは、我々に痛烈な反省が求められるコメントに思えた。野球以外のことにしっかり取り組む指導が今改めて問われている。プロ野球だけの責任とはできない。

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