【34】“無我夢中の後”を大切に 創設の精神は「野球を通じた人格形成」

 「日本高野連理事・田名部和裕 僕と高校野球の50年」

 第97回全国高校野球選手権大会は、高校野球100年の記念すべき節目にふさわしい内容の大会だった。

 その閉幕から2週間が過ぎた。まだその余韻が残っている気がする。最後の夏を戦った3年生は今どんな心境だろうか。優勝した東海大相模以外はすべて敗戦を経験した。

 「勝利より敗戦から学ぶことが多い」は、今夏で勇退された横浜・渡辺元智さんの言葉だ。

 僕は、第45回の兵庫大会2回戦で予期せぬ敗退を喫し、3日間ほどは呆然とした日々を過ごした思い出がある。

 かつて島根県の若手監督から、甲子園出場を機によく手紙をもらった。ちょうど今頃の近況報告だった。「今までチーム内のまとまりがなかなかうまくいかず悩んでいた」という書き出しで、その年の夏休みは違ったという。

 7月の予選でベンチ入りできなかった3年生3人が、夏休み中休まず新チームの練習を手伝ってくれた。今までになかったことで、効率的な練習ができ、2年生も発奮し、秋季大会への備えも手応えが感じられます、とあった。

 僕は手元にあった甲子園の試合で使ったボール3個を送った。すると間もなく3人から作文をいただいた。内容はご想像の通りで、「こんな形で報われるとは思っても見なかった。一生の宝物です」とあった。

 その後、同じ山陰地方であった地域の体育振興の講習会に招かれた時、このエピソードを交え、指導者と部員が一体となった取り組みの成功例をいくつか紹介した。幸いにも僕の周りには感動する逸話がいくつもある。

 講演が終わって懇親会があった。一人の老紳士が近寄ってこられ、「要するに大切なことは無我夢中の後ということですなぁ」と感想を言われた。

 この夏、連日級友や地域の声援を受け、素晴らしい活躍を遂げた選手も多かったと思う。その舞台が甲子園ともなれば、メディアにも取り上げられ一躍ヒーローになったことだろう。

 もちろんそれまでの厳しい鍛錬を乗り切った土台があったから得られた成果だと思う。

 高校野球創始の精神は「野球を通じて立派な人格を養う」だ。その活躍が、ユニホームを着たグラウンドだけであったら画竜点睛を欠く。

 すでに学校では2学期が始まっている。最後の夏を終えた3年生が今、クラスでどうしているだろうか。周囲の称賛の声に自分を見失っていないか。君は今、“無我夢中の後”を大切にしてほしい時空にいる。

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