【元香川・伊東貴行内野手】＝文・高田博史

　野球を断ち切る－－。

　２０１４年冬、伊東貴行はそんな覚悟で「トライアウト・リーグ」に挑戦した。

　「プロに行ける環境に挑戦して。入りたいというよりも、そこで落ちて。野球は区切ろう」

　硬式野球は大学まで、と考えていた。就職して軟式野球を続けながら「これでいいのか？」という気持ちが膨らむ。会社を辞めてまでのアイランドリーグ挑戦に、両親は賛成しなかった。

　香川に入団後、全体練習が終わったあとで独り黙々とバットを振っている。そんな姿を何度も見かけた。

　徐々に先発出場の回数が増えていく。近藤智勝コーチは「西田さん（真二監督）が実力を認めて、使おうと思うところまで来ている」と話していた。体は大きくないが、一発のある長打力を秘めている。

　大学時代は「逆方向にゴロを転がせ！ファウルで粘って球数を投げさせろ！」という指示に従いプレーしていた。チームプレーに徹するなかで、いつしか野球の楽しさを忘れた。それが一時、野球を諦めた理由の１つである。西田監督から「引っ張ってもいい。フライを打つならホームランを打て！」と言われたことがうれしかった。

　しかし２年目、自身の立ち位置に迷う。チームリーダーとしての責任を求められ、同時に昨年以上の自分を見せるために何をすべきなのか、自分のやりたいプレーは何なのか、悩んだ。

　「それどころじゃない！みたいな。上に行こうとか、全然考えてなかったですね。どっかで諦めてたんだと思う」

　監督から「何を目指しているのか分からん」と言われ、その通りだと思った。

　引退を決断し、区切りを付けることはできたのか。

　「『やり切れたか？』って聞かれると、多分やり切れてないですよね。でも、もう１年やって『やり切った』と無理やり言う必要も、そんなないかな。やり切れなかったけど、こういう環境で２年間できて……」

　だが、挑戦したことに対する後悔はまったくない。２年前の決断は、間違ってなかったと言い切れる。いまはもう、野球から離れることへの未練もない。