“苦労人右腕”が救世主となるか…投手不足に苦しむ台湾代表

 WBC台湾代表チーム。実は昨年の12月15日から台中で代表合宿を張っている。期間は1月25日まで。正月をはさんでおよそ1カ月以上の合宿だ。こう書けばなんとエライ意気込みか、と言うところだが、参加は選手の自主性に任せ練習も個人が主体。代表合宿というより、自主トレの場所提供の意味合いが強い。ただその後、最終メンバーが集結した2月6日からは豪州に移動し、実戦形式の“海外合宿”を予定している。

 これだけ長期かつ大規模な調整は台湾代表のやる気の表れではあるが、悲しいかな選手の代表辞退は相変わらず続いている。

 1月11日には、台湾のエースである王建民が正式に出場辞退を表明した。辞退は昨秋時点で公言していたから予測されたものではあった。が、やはり台湾代表としては現実となると痛い。ただ王建民は「(36歳の)自分が出ることで、若い選手の機会を奪いたくない。選手も世代交代が必要だと思う」と辞退の理由を述べていたが、その「若い選手」たちの辞退も続いているのは皮肉な話だ。

 台湾では有能な選手の多くがアメリカに“流出”していることは、以前、このコラムでも記した。そうした選手が国際大会では代表として戻ってくる。まるで渡り鳥の帰巣のごとくに集まり、代表チームの戦力アップに貢献していた。しかしこと今回は、そうしたメンバーがことごとく辞退している。

 次世代のエース格と称される胡智為(レイズ2A)は、メジャー40人枠入る可能性もあるとのことで、春季トレーニング優先で辞退。強肩強打の捕手、張進徳(バイレーツ3A)は故障気味でパイレーツでの練習に専念するため辞退。その他、10名近い若いマイナー組が候補に挙げられていたが、すべて所属チームのプロスペクトレベルでWBCより春季トレーニングを優先する、あるいはせざるを得ない立場だった。結果、今回の台湾代表のチーム力は半減と言ってもいいだろう。中華棒球連盟の幹部に至っては「これまでは米国行きを応援してきたというのに、肝心なときに協力しない。今後はMLBよりNPB行きを推進すべきかも知れない」と嘆くばかりだ。

 それだけ“国内組”が頼りないと見られているわけだが、無理もない。投手でいえば昨季、規定投球回数に達したのはプロ4チーム全体でも6名しかいない。そのうち上位4選手が外国人で“国内組”は2名に満たない。近年の台湾プロリーグは超のつく打高投低のため、必然的に投手は外国人に頼らざるを得なくなる。それが台湾人投手の登板機会を奪い、伸びる芽を摘んでいる。そんな見方も台湾球界には少なくない。

 今大会ではそうした“投手不足”もマイナーの若手に期待することも出来なくなった。「日本に来ている郭俊麟(西武)や陳冠宇(千葉ロッテ)が主軸となる」(台湾球界関係者)という声を聞くと、正直、そのレベルが窺える。

 そんな中、静かに注目されている投手がいる。王政浩だ。身長は180センチと特別大きいわけではないが、ダイナミックなフォームから思い切りよくストレートを投じる。台湾球界では知る人ぞ知る社会人所属の右腕が、代表合宿に“テスト参加”しているのだ。

 高校時代には全国大会でも注目される右腕だったが、高校3年時にヒジを痛め大学1年のときに手術。だが術後の状態は芳しくなく、大学を辞め野球からも縁を切った。配送のアルバイトなどして生活していたが、野球から4年離れた頃、未練断ちがたく、球界関係者らの後押しもあり、社会人チームに入った。最初は140キロ出るかでないかという球速だったが、4年間のブランクが逆に休養となって幸いしたのだろうか。徐々に球速を増し、昨季は150キロまで復活した。そして今回、27歳にして高校以来の代表入りを果たすべく、合宿で汗を流している。

 「球威だけなら、他の代表の投手に負けない。あとは課題の変化球が精度を上げれば、豪州の合宿にもつれていくことになっています」と代表関係者は期待を寄せる。なにより「王政浩が代表入りしたら、元気のないチームに渇を入れることにもなる」とも。

 いかに人材難からとはいえ、一度は野球を辞めた投手がWBCという舞台を目指している。明るい話題の少ない台湾代表にあって、文字通り、元気を与えてくれる右腕。そんな投手のピッチングを是非、見てみたい。

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