かみじょうたけし「人と人とがつながる野球」を実践した彦根東ナイン
第99回大会もベスト16が出揃ったのだが、今大会はなんと言ってもホームランが大量に飛び出している。
これまでの記録である第88回大会の60本をも上回わってもおかしくないペースだ。
2本塁打が5人、うち亀岡京平(済美)、中村奨成(広陵)の二人は3本塁打と清原和博が持つ大会最多本塁打5本も夢の数字ではなくなってきた。
そして、そんなたくさんのホームランの中で今大会特に印象深いものをあげろと言われると、青森山田戦で彦根東の仲川俊哉選手が打った一本になる。
彦根東といえば、夏の甲子園出場は4年ぶり2度目(選抜は3度出場)で野球部の中にも京都大学進学希望者がゴロゴロいる正に「文武両道」を掲げる県内屈指の進学校なのだが、よくある頭脳明晰な野球ではなく、公立校らしい小技を駆使した野球でもない。
「人と人とがつながる野球」、で甲子園への切符を手にしたのだ。
まず、彦根藩の藩校の流れをくむ学校やグランドは彦根城内にあるため打球がすぐ外の観光客にあたる恐れがある、そこでバッティング練習は彦根のバッティングセンターで行っている。
他にも高校野球を15年以上取材してきた方がこんなに生徒と近い監督は初めてと言うほどで、とにかく部員が野球部をやめないのだという。
さらに大学時代は書道部だったという監督さんが日々の練習メニューを筆で書くのだが、割烹料理屋のメニューか!とツッコミたくなるようなできばえだ。
そして部員達が一番涙したのが、甲子園出場が決定した瞬間ではなく、決勝戦の後、レギュラーメンバーが3年生全員を胴上げした時だったという。
まさに地域の人達や監督さん、そして仲間とのつながりで甲子園をつかんだチームである。
そんなチームの中で、クリーンナップではなくベンチ入りとベンチ外の狭間の背番号18を背負った滋賀大会ではなんと0打数のバッターが9回ツーアウトから甲子園でホームランを放ったのだから僕の心は一気に持っていかれた。そして三塁アルプスを真っ赤に染めた応援団もその日一番の盛り上がりをみせていた。
「困ったときは原点に帰れ」
彼が監督の教えで一番印象に残っている言葉だ。そしてその原点こそ、人と人とがつながる野球だったのではないだろうか。
昨夏ケガで何もできない時も基本練習の補助でチームを支えていた彼に対してベンチの仲間から届けられた声は「楽しんでこい」だったという。
一緒にやってきた仲間と野球の神様が打たせてくれた人生初のホームランはこのようにまた彼との新しいつながりを作ってくれた。このような出会いこそが僕が聖地に足を運ぶ理由となっている。
◇ ◇
かみじょうたけし(本名・上条剛志)1977年12月31日生まれ。兵庫県淡路島出身。龍谷大卒。血液型A型。身長170cm、体重50kg。高校野球大好き芸人として知られる。趣味・特技は競輪予想、モノマネ。