今年のカープは「せっかくの野球」品薄の先発陣、後戻りの堂林、迷いが目に付く鈴木誠

 元中国新聞記者でカープ取材に30年以上携わった永山貞義氏(72)がデイリースポーツで執筆するコラム「野球爺のよもやま話」。広島商、法大でプレーした自身の経験や豊富な取材歴からカープや高校野球などをテーマに健筆を振るう。

  ◇   ◇

 漫画家でエッセイストの東海林さだおさんによると、日本人の多くには「せっかくの思想」というのがあるそうだ。例えば「せっかく東京まで来たのだから、ディズニーランドにも行っておこう」といったような「もったいない思想」がその一つのよう。そう言われてみれば、思い当たる節がある。まさに今年のカープが「せっかくの野球」そのものではないか。

 せっかくなので、「せっかく」の意味を「日本国語大辞典」(小学館)で調べてみると、副詞として使う場合には(1)「苦心して」「骨を折って」「わざわざ」などとある。これを冒頭に使って、カープ野球になぞらえると、何と、あるわ、あるわ-。

 ・チャンスをつくっても、なかなか点に結びつかない

 ・リリーフ陣を充実させたのに、肝心の先発陣が品薄

 ・昨季、打撃開眼したはずなのに、また後戻りの堂林翔太

 次に(2)の意味は「その動作の結果、生じた状態を逃すのは、惜しいという気持ちを表す語」。そして(3)は「それが十分な効果を発揮しなくて、惜しいという気持ちを表す語」。この(2)、(3)の類いを列挙すると-。

 ・先発の役割は果たしているのに、勝ち切れない森下暢仁

 ・22試合連続無失点記録を続けたのに、11セーブしか付かなかった栗林良吏

 ・打率は悪くないのに、迷いが目につく鈴木誠也

 こうした事例をほじくり出せば、まだまだありそう。こんな盛りだくさんのあるあるの中で、ここまでで一番、中身の濃い「せっかく」と思っているのが、5月18日の巨人戦(東京ドーム)だった。

 この試合では右ふくらはぎ痛で約1カ月、戦線を離脱していた大瀬良大地がせっかく復帰登板したものの、絶好調だった菊池涼介をはじめ小園海斗、松山竜平、西川龍馬らがコロナ禍に見舞われ、1、2軍合わせて16選手が入れ替えられた。

 それでもこの日、1軍選手登録された林晃汰がせっかくのプロ初打点、宇草孔基も2点目を挙げたのに、大瀬良が直後に3失点。ここまでなら「惜しい」で済まされようが、この後の失態には、さすがに「何をしよるんなら」との広島弁での叫び声が出た。

 コルニエルが岡本和真に対して、せっかく160キロ前後の速球で簡単に追い込みながら、3球目に甘いスライダーを投じて2ラン。サインを出した坂倉将吾も「せっかく」の④の意味として、「十分に気をつけるよう望むという気持ちを表す語」というのがあるのを、ご存じなかったらしい。

 この敗戦から2日後、追い打ちをかけるように鈴木誠也、長野久義、羽月隆太郎らがコロナ禍で退場すると同時に、交流戦が開幕。こんな困難、難儀に遭う様も、「日本国語大辞典」は名詞として、「せっかく」と記している。

 五輪マラソンの銀メダリスト、有森裕子はこの難儀な「せっかく」を逆手にとって成長を続けた。きっかけとなったのが、伸び悩む中でけがをした時、小出義雄監督が諭した一言。「何で、けがをしたと思うな。せっかくと思え。意味のないことなんて、何もないんだ」。以来、どんなことが起きても、「せっかく」と思えたから、どれだけ故障しても立ち向かえたという。

 こうした有森の「せっかくの思想」の功罪は、今年4月以降のカープの動向と相通じるものがあるのではないか。その流れを端的に表すと、「せっかく野球の全開」+「コロナ禍による交流戦での惨敗」=「若手の台頭」。このように前向きに捉えると、今年の「せっかくの野球」は、チームの新旧交代を予告するゴングなのかもしれない。

 ◆永山貞義(ながやま・さだよし)1949年2月、広島県海田町生まれ。広島商高-法大と進んだ後、72年、中国新聞社に入社。カープには初優勝した75年夏から30年以上関わり、コラムの「球炎」は通算19年担当。運動部長を経て編集委員。現在は契約社員の囲碁担当で地元大会の観戦記などを書いている。広島商高時代の66年、夏の甲子園大会に3番打者として出場。優勝候補に挙げられたが、1回戦で桐生(群馬)に敗れた。カープ監督を務めた故・三村敏之氏は同期。元阪神の山本和行氏は一つ下でエースだった。

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