楽天・松井インタビュー 五輪イヤーに決断した先発転向に隠された思いとは
東京五輪の日本代表候補でもある楽天・松井裕樹投手(24)。昨季は自身初のセーブ王に輝いた日本を代表するクローザーが、五輪イヤーに決断した先発転向に隠された思いとは何か-。そして過去の五輪の思い出、優勝を目指すチームについてなど、左腕が2020年シーズンへ臨む心境を聞いた。
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-今までの五輪で印象に残った選手は。
「日本人では、やはり北島康介さんです。(世代的に)04年のアテネが夏季五輪ではど真ん中って感じで、女子マラソンの野口みずきさんの金メダルとか、あとはマイケル・フェルプス。エグかったですね(笑)。僕も子供のころは水泳をやっていましたから」
-水泳をやっていたから北島やフェルプスのレベルがわかる。
「いやいや、とてもそこまでは。でも五輪は長水路(50メートル)。例えばその50メートルを自由形で、20秒台で泳ぐ。意味がわからないですよ、そのスピードが(笑)。そう感じたのを覚えていますね」
-今は同じアスリートの立場でオリンピアンのすごさを感じる。
「半端じゃないですよね。柔道も日本のお家芸と言われて、メダルを取って当たり前と思われている。そのプレッシャーの中で、普段から自分を追い込んでやっているのだろうと。本当にすごい」
-昨季までの抑えのポジションもチームの勝利に直結するプレッシャーがあった。
「でも、個人競技はプレッシャーをすべて個人で受け止めている。北島康介さんもそう。五輪連覇をみんなが期待している中で、それを成し遂げている」
-チームスポーツは助け合える部分も。
「そうですね。4年に一度、そのすべてを背負う重みは想像を絶すると思います。4年間という長い時間を準備して、そこで五輪が近づいてくるとどういう思いになるんだろうとか、考えますよね」
-五輪の野球競技をどう感じてきたか。
「野球が北京(08年)を最後に五輪競技から外れるという時は、正直ピンときていなかったですね。12年前は中学校1年。(自分が五輪に出たいとか)思いもしていないし、ああそうなんだと」
-ただ、今こうして競技復帰して出場できる可能性もある。
「巡り合わせですよね。東京での五輪だからこそ野球が復活した。年齢的にもタイミングはいいと思います」
-その五輪を前に先発転向を決意した。
「抑えのまま五輪にという考えもありましたが、もう一つ先発で選手としてのレベルを上げて、大事な試合で投げられるまでになりたいと思ったんです。今まで(代表では)ちょっとしたところでしか投げさせてもらえなかった。もっと代表においても自分の役割というのを構築していきたいと思いました」
-出場した15年プレミア12、17年WBCも代表の中心選手ではないという思いが。
「そうですね。もっともっと投手として総合力を身に付けないと(代表候補に)名前も挙がってこないと思うんです。それならば先発転向とか、いろんなことにチャレンジして、打者との対戦数が増えることで得られることもある。そういうものをつかみに行きたいなと思いました」
-はたから見ると難しい決断のようだが。
「難しい決断だとは思わないです。今のレベルを考えた時に、もっと自分の幅を広げるところにトライしていかないと、投手としての大きさというのは得られないですから」
-五輪代表に選ばれるためには前半戦が特に重要になるし、チームの優勝のためには通年での活躍が求められる。数字の目標は。
「先発登板数は25~27試合を投げられれば、1年間ローテを守った証しになる。ふがいない投球を続けてファームに行けば、その数は達成できないと思うので。まずはそのクオリティーの投球を継続していくことですね」
-その試合数ならば2桁勝利や規定投球回クリアも視野に入る。
「そうですね。先発を久しぶりにやるというだけで、ルーキーではないですから。チームも僕に高いお金を払っていますし、期待を掛けてもらっているので、それを還元して、結果という形で恩返ししていきたいです」
-先発転向1年目の甘えはない。
「久しぶりだから許されるということはないと思います。則本(昂)さんや岸さん以外は本当にまだ先発ローテも決まっていないと思うので、これなら松井に3番目を任せようかというような投球を見せて、アピールをしていきたいです」
-あらためて2020年の目標を。
「今年も素晴らしい選手が来て、チーム力は上がったと思います。そこでアピールし合って、競争し合って、シーズン中もお互いに負けたくない気持ちでやれば高いレベルを維持できるかなと。石井GMも言っていましたけど3位じゃダメ。しっかりと胴上げ、ビールかけまでやりたいので、優勝したいです」
-最後に東京五輪への思いを。
「五輪はずっと見てきた舞台。ましてや自分の競技がこのタイミングで復活して、この上ないチャンスがある年ですよね。自分自身に期待したいし、新たな挑戦もポジティブに捉えてやっていけばいいことが起こるんじゃないかなと思います。代表に選ばれるためにも、何とか前半戦で良いスタートを切れるように、しっかりと準備していきたいです」