「走る海岸レストラン」でちょっと贅沢気分 ~JR四国「伊予灘ものがたり」~

 穏やかな瀬戸内海沿岸を走りながら、身も心も豊かな気分になれる列車がある。予讃線・松山~伊予大洲,八幡浜を往復するJR四国自慢「伊予灘ものがたり」は、2014年の運転開始以来、落ち着いた雰囲気とこだわりの食事で人気の観光列車だ。昨年4月に車両がリニューアルされてより魅力が増した「走る海岸レストラン」に鉄道好きなオッサン記者が腹を空かして乗り込んだ。

 13時20分、松山駅3番ホーム。茜(あかね)色と黄金色に輝く3両編成のディーゼル列車が、ホームに流れる音楽とともに入線してきた。これから八幡浜まで約2時間20分「伊予灘ものがたり・八幡浜編」の始まりだ。

 2014年7月に運転が始まった「伊予灘ものがたり」。全国に数ある観光列車の中でも乗車率とリピーター率の高さを誇っている。初代は旧国鉄の気動車キハ47形を改造した2両編成の観光列車だったが、車両の老朽化で昨年4月に特急形気動車キハ185系を改造した2代目に生まれ変わった。2両から3両編成に増えた2代目の人気はさらに加速。運転開始から1年過ぎた今年5月には利用者が早くも3万人を突破したという。

 初代と同じ「レトロ・モダン」をコンセプトとした車内は落ち着いた雰囲気。1号車の「茜(あかね)の章」は伊予灘を染めていく夕焼け空をイメージ。4人用ボックス席や2人用対面席、海向き展望席などを装備している。2号車の「黄金(こがね)の章」は沿線に降り注ぐ太陽や愛媛の名産の柑橘系の果物をイメージ。種車であるキロハ186形の小窓を上手く合わせた海向きにズラリと並んだ展望シートが特徴だ。そして3号車は「陽華(はるか)の章」。2代目最大のセールスポイントでもある車両半分をまるごと使った個室「フィオーレ-スイート」がある。最大8人までの1両まるごと貸し切りになる「日本一ぜいたくな車両」だ。(利用には人数分の運賃・料金のほか、28000円の個室料金が必要)。車内の細かなデザインも凝りに凝っている。ミカンをモチーフにした車内照明は温もりが感じられ、洗面所の鉢は地元の砥部焼製。俳人・正岡子規にちなんで俳句投書箱も設置されている。

 大勢の駅員、スタッフに見送られ列車はゆっくりと松山駅を出発した。すぐに女性アテンダントが注文したオリジナルカクテル「黄昏」(800円)を運んできてくれた。ブラッドオレンジシロップと伊予柑リキュールで伊予灘の夕焼けをイメージしており、甘酸っぱく爽やかな口当たり。隣席の男性は「懐かしのくりーむそーだ」(800円)を注文。「これはインスタ映えしますね!」と互いに携帯で写真を撮りあった。

 列車は「坊ちゃんスタジアム」など市街地を抜けると、車窓はローカル線ムード満点の様相に。車両の両脇に竹の笹の葉がかぶさりワイルド感が増してくる。女性アテンダントの「まもなく進行方向右手にご注目下さい」とアナウンスが入った。ちょっとした山間部を抜けると、眼前に伊予灘が一気に広がり、乗客が歓声を上げる。この日は少し曇り気味で海の色は暗かったが、波のうねりがゆったり感じられる。「晴れの日雨の日曇りの日。春夏秋冬違った表情を見せてくれるんですよ」と女性アテンダントさん。「串の鉄橋」など絶景スポットでは、列車はゆっくり通過するサービスもうれしい。

 景色に見とれていると料理が運ばれてきた。1日に4便走る「伊予灘ものがたり」は、その列車ごとに食事メニューが違うのも特徴だ。「八幡浜編」は松山市内の老舗フランス料理店「レストラン門田」のフレンチミニコース。温かいタマネギのコンソメスープや、季節の食材をふんだんに使った冷製重など、見たた目にも鮮やかだ。眼前にひろがる伊予灘を眺めながら舌鼓をうつ。なんとも贅沢な時間だ。(食事コースは5500円。乗車券予約時に別途予約が必要)

 女性アテンダントによれば、2代目となり3号車に共食設備を備えるギャレーができたことから、「温かい料理(スープや愛媛県産真鯛とフレッシュトマトのココット蒸し)をご提供できるようになった」とのこと。座席も先代より大きくなり、よりゆったりとくつろげて好評のようだ。

 食事の途中だったが、列車は「下灘駅」に到着した。伊予灘に面してぽつんとたたずむ単線ホームは、青春18きっぷのポスターになったり、映画やドラマ、CMの撮影地にもなっている。ここで8分の停車。「映えスポット」に乗客たちは様々なアングルで写真を撮りまくる。海沿いの線路下に併走するように国道が通っているのだが、「下から見上げるように」駅と列車を写すと国道が写らず、列車と駅が海に浮かんでいるように撮影できるという。

 「伊予灘ものがたり」は1日4便全ての列車が下灘駅に停車。朝、昼、午後、夕方と時間によって駅の雰囲気も変わってくるそうだ。

 美味しい料理に抜群の眺望、これだけでも満足なのだが、「伊予灘ものがたり」の最大の魅力は、沿線地域の人々のおもてなしだという。通過する駅のホームから、沿線の住宅、病院などから「ようこそ」「だんだん」などお手製のお迎えグッズで大きく手を振って列車を迎えてくれる。なかには、「たぬき駅長」だったり、シャボン玉を乱れ飛ばしたり、ベランダから愛犬と一緒に老夫婦が笑顔で手をふったり…。八幡浜付近のガソリンスタンドからは、なんと大漁旗を振っての歓待ぶりにびっくりだ。伊予大洲付近の鉄橋を渡ると、遠く大洲城からも旗が振られているのがわかる。「(沿線の人々には)列車の運転日、時刻はお知らせしているが、特に仕込んでいるわけではないんですよ」とJR四国の関係者は笑う。列車はゆっくり走るので、こちらが少し恥ずかしくなるほどの笑顔で手を振る沿線の人々の気持ちが十分に伝わってくる。小学校を通過するとき、プールの授業だった子どもたちが、元気よく手を振る姿に、思わず涙が出そうになった。

 美味しい料理に、抜群の眺望、そして人々の人々の最高の笑顔。目やお腹がいっぱいになるだけでなく、感動で胸がいっぱいになる「伊予灘ものがたり」。リピーター率が高いことがよく分かった。1日に4便走り、旅のスケジュールに合わせて乗る便を選べるのも人気の高さだろう。

 これから夏本番。瀬戸内の太陽と優しさを満喫しに、あなたも出かけてみてはいかがだろうか。

◆運転日~主に金土日、祝日に運転、1日4便

◆運転区間と時刻

「大洲編」 松山 8:26→伊予大洲10:28

「双海編」 伊予大洲10:57→松山13:01

「八幡浜編」 松山13:31→八幡浜15:50

「道後編」 八幡浜16:1→松山18:17

※各便、途中の下灘駅で9~13分途中停車

◆使用車両 JR四国キハ185系3両編成 全車グリーン車指定席

◆料金、乗車券、指定席券、食事予約券の購入

「伊予灘ものがたり」公式ホームページ

観光列車「伊予灘ものがたり」-JR四国 (iyonadamonogatari.com)

◆問い合わせ

JR四国電話案内センター☎0570004592(8:00~19:00、年中無休)

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