菅長官と対決・望月記者原案の映画「新聞記者」 参院戦直前なのに…「よくぞここまで」

 平日の午前と午後に開かれる、菅義偉官房長官の定例記者会見。2年前の6月から、この会見場で異彩を放ち続ける女性がいる。東京新聞社会部の望月衣塑子記者。はきはきとした声で菅氏に質問をぶつける姿はすっかりおなじみとなったが、一方で、「あなたに答える必要はない」と突っぱねられたり、質問の途中で官邸報道室長から「簡潔に」などと何度も言葉を挟まれる「妨害行為」を受けたりと、官邸側との軋轢もたびたび注目を集めてきた。

そんな望月記者の著書「新聞記者」(2017年)を原案とする同名映画が、6月28日から全国公開される。新聞記者を韓国の若手女優シム・ウンギョン、内閣情報調査室のエリート官僚を松坂桃李が演じ、北村有起哉、岡山天音、本田翼、田中哲司ら錚々たる俳優も出演。描かれるのは、森友・加計問題や伊藤詩織さんの「準強姦」訴訟、元文部科学事務次官・前川喜平氏の「出会い系バー」報道など、現政権を巡る数々の疑惑や事件だ。フィクションでありながら、現実社会と直結するテーマに切り込む意欲的な内容になっている。

公開を前に、望月記者、前川氏、そして朝日新聞の元政治部記者で現在は新聞労連の委員長を務める南彰氏の3人に話を聞いた。前後編に分けて紹介する。

   ◆   ◆

 -まずは、映画の感想から。

 望月「題材がモリカケや詩織さんの話で、しかも安倍政権も継続中なので、映画化は正直無理だろうと思っていました。無事に完成し、公開までこぎ着けられたことがまずすごいです。実際に作品を見て、よくぞここまで、真正面から政治や社会の問題に切り込むような映画ができたなあと驚きました。強烈な問題意識を持つ河村光庸さん(原案/企画・製作/エグゼクティヴ・プロデューサー)だからこそやり遂げられたのかなと思います」

 前川「河村さん、本当にすごいよ。そのうち命狙われるんじゃない?」

 南「しかも公開が参院選の直前」

 望月「それはもともと狙っていたみたいですよ」

 前川「このタイミングでの公開は、政権にとってはかなりのインパクトになると思う」

 -松坂さんをはじめ、出演者も豪華な顔ぶれです。

 望月「安倍政権が今、芸能人も露骨に『お友達』として取り込もうとしている中で、こんな映画に出て大丈夫かなっていうのは、俳優のみなさんもあると思う。でもやっぱり、この作品が持つ問題意識に共感や魅力を感じてくれたのでは。彼らが表立ってそういう発言をすることはないですけど」

 前川「これに出たら、もう『桜を見る会』に呼ばれなくなっちゃうよ(笑)」

 -南さんはいかがですか。

 南「扱っているテーマがリアルで、政権とメディアの関係もかなり真に迫っています。主人公が『私たちはこのままでいいんですか』と口にする場面がありますが、メディアの人間、役人、そして観客ひとりひとりの覚悟を問う作品だと感じました」

   ◆   ◆

 -望月さんが会見に出るようになって2年。外からは、あの場の雰囲気がよく分からない部分があります。望月さんに対する菅さんの素っ気ない回答を見るたびに驚かされるのですが、「なんかおかしくないか?」という感覚はあの場にいる記者の間で共有されているのでしょうか。

 望月「されていない。みんな“殿”がそう言っているから仕方ない、という空気です。それは菅さんの番記者として、毎日、彼の顔色を見ながら『なんとかネタを取らなきゃ』みたいな場所にいる政治部記者の、ひとつの大変さだとは思いますけど」

 南「あそこには相互監視と同調圧力があるんです。菅さんに対して敵対的な発言があると、わざわざご注進する記者もいる。だから、あの場で望月さんを助けようものなら、『あれ、どうしたの』となりかねない。前はそこまでひどくなかった。あんな会見をやっているのは菅さんだけです。この5、6年でガラッと変わりました」

 前川「第二次安倍政権は、今までの保守政権とだいぶ違う。官邸と官僚の関係もガラッと変わっちゃった。みんなが官邸の方だけ向いて仕事をするようになった。現政権は、本当に極めて特異な政権だと思う」

 -メディアはそれにしっかり対峙できているのでしょうか。

 望月「全くできていないわけではありません。ただ、何か疑惑系の事案があって、会見で殿がちょっとでも不機嫌そうな顔をすると、誰も質問を重ねることができなくなるんです。ひとつの疑惑につき、1社が2つ3つ聞いたら終わっちゃう。一方で、令和発表の前日なんかは、菅さんが嬉しくてニコニコしているものだから、会見場はすさまじい元気の良さでした。そんだけ質問できるんなら、普段、他のことももっと突っ込めるよね、と思いました」

 -とはいえ、突っ込んでも素っ気ない回答が多い印象です。

 望月「そう、社会部的な感覚からすると、あの程度の回答では納得できない。でも政治部の記者はああいうのをずっと聞かされているから、『もうしょうがねえや』みたいな慣れ、諦めがあるのかもしれません」

 -あんなやり取りを2年も続けたら、私なら心が折れてしまいそうです。

 望月「そもそも記事にならないしね。でも折れませんねえ(笑)。会見では各社が結構いろいろぶつけていくわけで、そこはすごく面白かったりもするんですよ。めちゃくちゃな回答が多いけど、たまに、『あ、(本音を)言ったな』ってこともありますしね。それから最近は、私への質問の妨害が再開しています。会見の様子は海外にも発信されているのに、恥ずかしげもなくよくこんなことができるなあと思いますよ。質問で私が『この妨害ですけれども』と発言すると、『妨害なんかしていない』と応じるという、ブラックジョークみたいな状況になっています」

 -ネットでは、望月さんを批判、攻撃する人も散見されます。

 望月「ネットは一部に強力なネトウヨサポーターみたいなのがあるから、会見の動画などでも私を罵倒するようなコメントが多いのかなと思っています。でも、みんながそれに熱狂しているかというと、数としては実はかなり限られているような…。もちろん、私が問題のある質問をしてしまったときもあるけど、ネットの炎上とかはあまり気にしていません」

後編へ続きます。(まいどなニュース・黒川裕生)

■映画「新聞記者」は6月28日(金)からなんばパークス、イオンシネマほか全国ロードショー

 https://shimbunkisha.jp/

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