ハリル流浸透 豪州戦契機に「集団」から「チーム」へ

 6大会連続のW杯出場を目指すサッカー日本代表。全10試合で行われる18年ロシアW杯アジア最終予選は7試合を消化し、日本はB組で首位に立っている。同予選の初戦・アラブ首長国連邦(UAE)戦(2016年9月1日)で1-2と敗れながら、挽回してきたハリルジャパン。成績には表れない、成長への道筋をチームはどのように、たどってきたのか。その内部でどのような変化が起きてきたのかに迫る。

 目を疑った。目をこすった。だが、目の前の情景は変わらない。現実だ。ハリルホジッチ監督が、記者に向けてサムアップポーズをしている。ばっちりと目が合っていた。その瞬間は、3月の敵地アルアインでのUAE戦のさなかだった。

 試合中に記したメモに記述がある。UAE戦の前半27分。FW原口からFW大迫へとパスが送られたシーンだ。左サイドへと開きながら狙った前方へのパスは大迫へつながらず、流れていった。

 スコアは1-0。パスの質次第では突き放すチャンスだった。「今のはアウトサイドで蹴るべきだろ…」。思わず記者席から言葉を漏らし、右腕を振り上げた。

 UAE戦の記者席は低層階にあった。座ったのは日本代表ベンチの真裏。ベンチ前で激高し、同じく右手を振りかざしてターンしたハリルホジッチ監督と目が合い、冒頭のシーンへとつながった。

 日本は7試合を終え5勝1敗1分け。6チームで争うB組のトップで、自動的に本大会出場権が得られる2位以内につけている。順当にも映るが、船出は不安だらけだった。

 16年9月1日、埼玉スタジアムでのUAE戦。後から「悪くない内容だった」と言うことはたやすいが、結果がすべてのW杯予選で初戦黒星。すべては最悪から始まった。

 チームが変わり始めたのは16年10月だろう。敵地でのオーストラリア戦。ハリルホジッチ監督は本田をセンターFWに据えた。同組最大のライバルを相手に日本は1-1で終えた。ハリル流が浸透しているとみた。

 日本が見せたのは、いわば“効率の良い”サッカーだった。相手にボールを持たれることを想定し、守備面では自陣右サイドをケアする意味で、本田ではなく豊富な運動量で上下動ができる小林を起用。攻撃面で本田をセンターに起用した効果は抜群とは言い難いものだったが、結果としては本田から原口のゴールも生まれた。

 そこから日本代表は「集団」から「チーム」へと変化していく。敵地では敵地での戦い方があると見せつけ、UAE戦では司令塔を封じることに主眼を置き、MF今野をインサイドハーフとして起用。世界と戦う上で“自分たちのスタイル”を重要視していた選手たちは変わっていく。

 当初、ハリル監督が提案する相手に合わせた戦略に、選手は懐疑的だったが徐々に理解度は高まった。さらに昨年10月から、リオデジャネイロ五輪代表を指揮した手倉森コーチが再入閣してから、その動きは加速した。

 手倉森コーチはスタッフ会議での内容を、選手たちに落としこんだ。「最初に聞いたら『んっ?』となる真意を細かく聞いて、選手に伝えるようにした」。ミーティングは、ハリルホジッチ監督が嫌う、“一方通行”の情報伝達から、両者間の意思疎通へと変わっていった。

 徐々にチームへとなるハリルジャパン。その象徴的なシーンが、記者と目が合った際のサムアップポーズ。日本代表に関わる人間は、全員をチームと捉えていると感じた。

 伝える側と受け取る側-。少しずつだが、確実に互いに距離が近くなるボスニア・ヘルツェゴビナ出身の指揮官と、日本人選手。浸透するハリル流に沿って、チームは進化している。

 お互い、描く絵は1つだろう。W杯出場権をつかみ、世界を驚かせること。それぞれのアプローチは今、集約されつつある。(デイリースポーツ・松落大樹)

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