岡山・美作で感じたなでしこの「文化」

 人口わずか3万人の街に、約5000人が集まった。7月12日のなでしこリーグ、岡山湯郷-INAC神戸でのことだ。岡山県美作市の小高い丘の上にあるサッカー場には、カナダW杯準優勝に輝いた選手たちを一目見ようと、老若男女、多くのファンが詰めかけた。

 珍しい光景だった。サッカー場といえば、チームのユニホームに身を包んだサポーターが大声を上げて選手を鼓舞するイメージが強いが、ここは違った。家族3世代が集まり歓声を送ったり、おにぎりやお弁当を持ちより“奥さま会”が開催されていたり、おじいちゃんが仲間と手をたたいて応援する姿も見られた。

 その応援も、応援団がたたく太鼓に合わせてではなく、どこからともなく「宮間!宮間!」と“コール”が生まれる。シュートを放つと、大きな拍手が会場を包んだ。スタジアムは戦いの場だが、和やかな雰囲気もある不思議な空間だった。

 宮間は試合後、「本当に温かい声援が多い。力になります。後押ししていただいていると感じる」と感謝し、「ここでは徐々に文化にしていただいている。その輪を広げたい」と続けた。

 その3日前に行われた凱旋(がいせん)パレードも、ぬくもりにあふれていた。ここにも老若男女が集い「おかえり~」「おつかれさま」そして「おめでとう」など、彼女らを迎える言葉が飛び交った。定食屋さんで昼食に名物・ホルモンうどんを頂いた時にも、店員さんとお客さんが「今日帰って来たんだよね」「さっきその通りでパレードがあったの。すごいよね。格好良かった」。なでしこはコミュニティーであり、コミュニケーションの1つ。この街は“わたしたちの娘”の大活躍を、心から喜んでいるのだと感じた瞬間だった。

 なでしこジャパンの大黒柱が言う「文化」とは、きっとこの街の姿のことなのだろう。美作の中心には湯郷ベルがあり、そこで選手が懸命に努力を重ねる。

 他のスポーツのように、応援団が中心となってファンをまとめ、歓声を作りながらみんなで応援をする雰囲気は素晴らしいし、スタジアムに来たんだなと感じる瞬間でもあるが、ライトファンには立ち入りづらいという声があるのも確かだ。“会いに行けるアイドル”ではないが、会いに行ける距離にスターがいて、街がそれを支え、ともに歩んでいこうとする姿は、スポーツのあるべき姿なのかもしれない。

 試合後、マイクを持った宮間は「また来たいと思ってもらえる試合を続けたい。これからも、みなさんと一緒に戦えるチームでありたい」と、同会場史上最多4998人のサポーターに伝えた。そして試合後にもかかわらず、即席サイン会も行った。「一緒に戦う」-。こうしてファンは増えていったのだろう。世界に名をとどろかせた小さななでしこ戦士は、人口3万人の小さな街で支え合いながら生まれたのだと強く思った。(デイリースポーツ・國島紗希)

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