蝶野正洋が振り返る平成プロレス 「時は来た!」事件の真実

 もうすぐ平成が終わる。平成とともにプロレス人生を歩んできたプロレスラー、蝶野正洋が平成のプロレスを振り返った。今回は、1990年に橋本真也が残した名言「時は来た!」について語り尽くす。

  ◇  ◇

 オイ、テメエら!蝶野正洋だ。今回のオレが振り返る平成プロレスは、今も語りぐさになっている「時は来た!」事件について話そう。

 とは言え、30年近く前のこと。若い世代には知らない人も多いだろうから、どんな出来事だったのかを説明する。事件が起きたのは平成2年(1990年)2月10日、新日本プロレス・東京ドーム大会のメインイベントで行われたアントニオ猪木、坂口征二組-蝶野正洋、橋本真也(故人)戦の直前。まず、猪木さんの控室で「もし負けると言うことがあると…」と質問したテレビのレポーターを、猪木さんが「出る前に負けること考えるバカがいるかよ!」と、ビンタをカマして追い出してしまった。

 この衝撃的な出来事の一方、オレらの控室では、オレが「つぶすぞ、今日は!よく見とけ、オラ!」と怒鳴った後、鉢巻き姿の橋本選手が仁王立ちで「時は来た!それだけだ」とほえただけ。隣で一瞬笑いをこらえるオレの姿が映ってしまい、それが後々、テレビや雑誌などで何度も取り上げられるようなネタになってしまったという話だ。

 なぜ、そんなことが起こったのか。一つの要因はスポーツ中継の手法が変わったことだ。元々、スポーツ中継はテレビカメラが動かないのが基本だった。ハンディカメラとかを使わず、固定カメラの前で競技をしていたのが、そこに徐々に演出をかけていこうという流れになった。どういうことかと言えば、例えば試合ではなくて、入場前の様子を撮る。それをオレらの試合でやろうということになった。

 オレらに求められていたのは、海外修行から帰ってきた若いヤツらがアメリカナイズされたパフォーマンスで盛り上げるということ。オレらも怒鳴ったり、物でもぶっ壊してやろうという気持ちで息巻いていたんだ。ところが、相手は格上だから、カメラは先にこっちに来ると思っていたのに、先に猪木さんの方に入ってしまった。オレらは「えっ、これヤバいじゃん」となったわけよ。ガッデム!

 すると、猪木さんはやっぱりプロだからバチーンとやった。それをモニターで見ていたオレらは「ヤベエ、こっちも何かバシッと決めなきゃダメだろ」と慌て始めちゃってね。どっちが締める?となって、橋本選手が「とにかくやりたい」と言うから、「じゃあ」と任せたんだ。だけど、ギリギリでカメラがこっちに来ますとなったときに、やっぱり考えてしまったんだろうね。そこで出た言葉が「時は来た!」だった。オレは吹き出しちゃったよ。

 テレビ的には、後でオレらのところにカメラが来たということは、本当はオレらにレポーターを襲うぐらいのことをして欲しかったんだろう。でも、あっちが手を出して、こっちも手を出したら、やっぱりおかしいよ。マネしてるみたいだからね。(プロレスラー)

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