【ライフ】日本最大級のおもちゃ病院、神戸にあった

 「ハーバーランドumieオモチャ病院」代表の加藤正博さん
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 午前10時の受付開始からほどなくして、順番を待つ列には幼い子供からご老人までがズラリ。皆が大切そうに、壊れたおもちゃを抱えている。ここは兵庫県神戸市の商業施設・神戸ハーバーランドumie。毎月第3木曜日に開かれる「おもちゃ病院」での光景だ。

 おもちゃ病院とは、壊れたおもちゃを原則無料で修理するボランティアグループで、1996年に全国組織化された。主宰する「日本おもちゃ病院協会」(東京・新宿区、三浦康夫会長)は、おもちゃドクターの養成講座、修理技術の情報交換、普及活動の支援等を展開。現在では全国で約1400人がおもちゃドクターに登録し、約580のおもちゃ病院が開催されている。

 壊れたおもちゃは「患者」。修理依頼書は「カルテ」。修理は「治療」「手術」。その場で直すことができずに、引き取って修理することは「入院」。そんな呼び方に、おもちゃへの愛情が表れている。

 「ハーバーランドumieオモチャ病院」は15年10月に開院された。昨年12月までに15回開かれ、患者総数は1146。1回あたりの平均は約77と、日本最大級の規模を誇る。フードコート近くのスペースに受付の机を並べ、その奥のテーブルでは毎回10~15人のおもちゃドクターが患者の治療を行う。ドクターは、開院の間に同商業施設内の会議室で行われる入院患者の治療でも顔を合わせる。近隣には「神戸アンパンマンこどもミュージアム&モール」などがある人気スポットなだけに、昨年12月の開院でも平日とは思えない盛況ぶりだった。

 代表の加藤正博さん(69)は「とにかく楽しいんです」と目を細める。「大変なこともありますが、たくさんのおもちゃに触れるのが楽しい。みんなで、どうやったら直せるやろか、と知恵を出しあうのも楽しい。直したおもちゃが動き出すのを、最初に見られるのも楽しい」と話す。そして「おもちゃを渡した時、子供たちが孫のように喜んでくれるのが本当に嬉しいんです。これが最高の報酬です」と笑顔を見せた。

 ボランティアとはいえ、いい加減な気持ちはない。自腹で工具を揃え、交通費も出す。モーター交換など材料費がかかった場合を除き、例えば基板のはんだ付けなどの治療は原則無料。代金を請求した一例では、スピーカーを取り替えたしゃべるぬいぐるみが100円、ギヤとベルトを付け替えたメリーゴーランドが60円だった。預かったおもちゃの90%以上は蘇らせるという。

 ハーバーランドでは患者数が多いため、大半は入院措置となるが、しゃべったり歩いたりするぬいぐるみ類は、受付と同時に入院が決まる。「子供たちの前で、ぬいぐるみの中身を取り出したら夢が壊れるでしょ」と加藤さん。こんなところにも、彼らの高い意識の一端をみることができる。

 加藤さんは機械製図の仕事を引退後、14年11月にボランティア団体「神戸・灘おもちゃの病院」を立ち上げた。現在ではハーバーランド以外にも、神戸市内で月に一度ずつ3つのおもちゃ病院を開く。入院患者の治療を含め、ひと月の半分以上を活動にあてている。

 所属するドクターの数は当初の3人から約20人に増えた。大半がシニア世代。「経歴が全く違う人たちが集まって、一緒に楽しくやっています。核家族の世の中ですから、子供たちや若いお母さんお父さんと交流して、我々がおじいさんのような役割を少しでも担えれば」と話す。将来的にはドクターを50人に増やし、神戸市全区でおもちゃ病院を開設するのが夢だ。頭と手先を使う趣味であり、交遊関係が広がる場でもあり、他人に感謝される慈善活動でもある。穏やかな加藤さんの表情が、活動の充実ぶりを物語っていた。(デイリースポーツ・山本鋼平=取材協力・神戸ハーバーランドumie)

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