【芸能】寺島しのぶは“振り子”である~出演の決め手は「人」

 メジャーもインディーも変幻自在に横断する女優・寺島しのぶ。その“振り子”のような活動を貫く基準は、「人」にあった。

 11月25日から東京・草月ホールで、寺島にとって初体験となる朗読劇「肉声」が始まった。27日までの計4公演。約1時間半、黒いドレスと黒電話、白いソファにチェアというモノトーンの舞台で、モノローグの言葉を紡ぐ。公演前日のゲネプロ後、寺島は開口一番、「分かります?」と尋ねた。確かに、万人受けする“分かりやすい”芝居ではない。

 「だいたい朗読劇とか一人芝居とか全く興味がなくて、不思議なことをやってるという意識はありますけどね。(作・演出の)平野(啓一郎)さんと(構成・演出・美術の)杉本博司さん、(バイオリン演奏の)庄司(紗矢香)さん(との共同作業)だからこそやろうと思ったんです」

 「●●劇だから」ではなく、「●●さんだから」という“人”へのこだわりが作品選びの基準。舞台では、手にした台本を朗読しながらめくる形で、受話器が置かれたままの黒電話の向こうにいるのであろう“男”に語りかける。声の出ない相手との会話。その姿に、この晩秋から年末にかけて全国順次公開される出演映画「秋の理由」がリンクした。

 同作で寺島の夫を演じた佐野和宏は1990年代に瀬々敬久らと共に「ピンク四天王」と称された映画監督でもあり、2011年7月に下咽頭がんの手術で声帯を失った。映画では精神的な不調から声が出なくなった作家に扮(ふん)し、寺島は声にならない声を吐く佐野との修羅場を迫真の演技で表現した。

 寺島は語る。「『秋の理由』、すごく楽しかったですよ。地味な映画ですけど。ああいう映画って、劇場にかかること、それ自体が難しいことですから、それを実現できたことはよかったなと思います。佐野さんの生き様を映しているような映画なんで」。予算も、上映の機会すらも険しい作品であっても、映画に自身の存在をかけた主演の佐野や福間健二監督への思いが出演の決め手となった。

 作品選びは「人」ありき-。寺島が主演した映画の流れを振り返ると、11月7日に死去した荒戸源次郎監督作「赤目四十八瀧心中未遂」(03年)を皮切りに、ベルリン国際映画祭で左幸子、田中絹代以来、日本人3人目の最優秀女優賞に輝いた若松孝二監督の「キャタピラー」(10年)、来年の公開が待たれる、84歳の山田火砂子(ひさこ)監督がメガホンを取った「母-小林多喜二の母の物語」など、いずれも商業映画ではない“手作り”の作品だ。荒戸、若松、山田監督ら「人」としての深みに魅せられて主役を張ってきた。

 話を「肉声」に戻そう。相手の声が聞こえなくても、彼が何を伝えようとしているのかを想起させる寺島の“肉声”が、「秋の理由」と今回の舞台につながっていた-という点を指摘。返ってきた寺島の言葉には繊細な感性があふれていた。

 「心を通じ合わせることってすごい難しいですよね。お互い、普通にしゃべっていたとしても、通じないことって多いじゃないですか。でも何か一つのことに向かってしゃべっていると、相手がしゃべらなくても分かるんだなと。そういうのは分かる気がします」

 新年になれば、2月の六本木歌舞伎で市川海老蔵と共演。寺島の“振り子”は健在だ。規格外の女優として、これからも傾(かぶ)き続けていくだろう。

(デイリースポーツ・北村泰介)

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