【野球】広島・中崎が胸に刻んだ日本Sのサヨナラ満塁被弾「絶対に忘れずにいたい」

 体の傷は癒えてきても、心の傷はまだ難しい。右腰痛に加え、日本シリーズで右股関節痛を発症。広島・中崎翔太投手(24)は「痛みはもうなくなりました」と静かに笑う。だが、“あの日”を振り返れば、自然と表情は硬くなる。10月27日、2勝2敗で迎えた日本シリーズ第5戦(札幌ドーム)。1-1の九回に登板した。

 「あそこまでの抜け球は、なかなかないので。もう終わったことですけど、絶対に忘れずにいたいので」

 1死から田中賢に四球を与えると、市川の犠打で2死二塁。さらに中島の投手前の打球を内野安打とした。一、三塁。続く岡に対して初球、内角を狙った球がすっぽ抜け、腰付近の死球となった。

 両軍選手がベンチを飛び出す一触即発の事態に。2死満塁。動揺は隠せなかった。騒然としたムードの中で1ボールから2球目、西川に投じた直球は高めに浮いた。サヨナラ満塁被弾で屈した。「あのホームランは忘れず練習に取り組んでいかないといけない。一番悔しい、衝撃を受けたホームラン。1年間、必死に積み上げたものが、最後の最後で崩れてしまった」。全力投球の結果の敗戦。体には傷を負った。だが、得るものも確かにあった。

 「もうあんな悔しい思いはしたくない。空振りを取れる変化球と、1球で仕留めることができる制球が必要。まだ足りないことが多い。シリーズでも自分の悪いところが出たので。四球からフィールディングミスで走者をためて、長打。チームには迷惑を掛けたけど、レベルアップしていける機会になった」

 現在は昨年同様、ノースロー調整を続ける。有酸素運動と並行して、体幹を鍛えるメニューが中心。さらに年明けから挑戦する、新球のイメージを膨らませる。現在は150キロを超える直球を軸に、スライダー、シュートが中心。そこに「縦の変化」を加える。昨年から挑戦するフォーク、チェンジアップ。さらに「持っている球を進化させるのも一つ」と、幅広く“新球”の習得に意欲を見せる。

 今季は61試合に登板し、3勝4敗34セーブ。防御率1・32と抜群の安定感を誇った。前年にも69試合に登板し、29セーブ。クローザーとしての地位を確立したが、飽くなき向上心が背中を押している。来季も抑えを任されることが確実だが、先発など長いイニングを投げる準備もしておくという。大黒柱だった黒田の引退。チームとしての可能性、投手としての幅を広げるために進化を目指す。

 「誰にも負けたくない。黒田さんも抜けるので。来年、何をやるにしても球種が多いに越したことはない。昨年、今年と抑えをやりましたが、長いイニングを投げることができたら、幅ができるのもある。できるに越したことはないので。そこの上積みは必要。みんなで競争して争った方がチーム力が上がる。やれと言われたところで、投げられる準備をしておきたいです」

 来季でまだプロ7年目、25歳。悔しさは成長の糧に、経験は投手としての自信になる。「レベルアップしないと簡単には上に立てない。早いうちにやり返したい。そのためにもまずはレベルアップが必要」と中崎。“あの日”の残像はまだ脳裏に残る。だが、割り切れなかった気持ちに整理を付け、少しずつ前に向かおうとしていた。来季のリーグ連覇、そして悲願の日本一に必要不可欠な存在。信じて戦う。あの本塁打があったから今がある、と。(デイリースポーツ・田中政行)

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