【競馬】苦労人・森泰斗がダービーV機

 努力は裏切らない。苦労をした分、喜びは何倍にもなって返ってくる。

 8日の大井競馬場で南関東3歳クラシック第2弾・東京ダービー(ダート2000メートル)が行われる。1冠目の羽田盃を制したタービランス(牡3歳、浦和・水野貴史厩舎)が2冠奪取を狙うが、コンビを組む森泰斗騎手(船橋)にとっても、悲願のダービージョッキーへ最大のチャンスだ。

 ここまでのジョッキー人生は波乱に満ちていた。親の反対を押し切り、家出同然で競馬学校へ入学。98年に足利競馬で待望の騎手デビューを果たした。ところが、「なかなか思うようにいかないことがあって、何もやる気がしなくなった」と、1年半ほどで免許を自主返上してしまったのだ。「今にして思えば恥ずかしいです。愚かでした」。今で言うフリーター生活を送るうちに段々とむなしさを覚え、そこからは自分自身を責める毎日。「このままじゃ駄目になる」と心機一転。厩務員を経て、再び騎手免許を取得した。

 ただこれだけでは終わらなかった。着実に勝ち星を伸ばし、ようやく軌道に乗りかけたころ、大きな時代のうねりに巻き込まれてしまう。03年3月に所属する足利競馬が廃止に追い込まれ、04年12月に高崎競馬が、さらには05年3月に宇都宮競馬と相次いで長い歴史に幕を閉じ、活躍の場としてきた北関東地区から全ての競馬場が姿を消してしまったのだ。行き場がなくなり途方に暮れたが、運良く船橋競馬への移籍が決まり、同年6月に“3度目”のデビューを果たすことができた。

 とはいえ、勝負の世界。まだ大きな実績もない他場所から来た若手に、簡単にレースでの騎乗を任せるほど甘くなかった。騎乗数は激減し、勝てない日々が続いた。引退も考えた。だが、多くの困難を乗り越えて培ってきた精神力の強さが、それをさせなかった。地道に努力を重ね、着実に周囲からの信頼を得ていった。移籍6年目の10年に待望の重賞初Vを飾ると、その後はどんどん騎乗数&勝ち星が増えていった。そして一昨年、初の南関東リーディングを奪取すると、昨年ついに、全国の地方競馬の頂点に上り詰めた。

 「まだまだ未熟ですが、大きなレースも勝たせてもらえるようになって、自信を持って乗れるようになってきたのは確かです。何事も経験しないと駄目ですね。壁にブチ当たらないと…」と言うと、少し照れた。その昨年は「他地区の騎手の成績をネットで細かくチェックして、自らを追い込んで奮い立たせていました。もっと頑張らなくては、もっと勝たなくちゃってね」。幾度もどん底を味わったが、その経験が“森泰斗”という男を確実に強くさせた。

 メンタル面の強化のため、若いころから行ってきた読書は今も続けている。「デビューからの10年はいろいろなことがあったけど、その経験があったからこそ、今があると思っています」。さらなる飛躍を期す今年は、はっきりした口調で「(年間)300勝(昨年297勝)と、ダービージョッキーになりたい」と大きな目標を掲げる。

 相棒のタービランスは気難しい馬だ。「レース中は小さなウイークポイントがたくさんあるんです。とにかく繊細に乗らないといけない。直線でも油断をしているとソラを使うし、まだ余裕があって本気で走っていないんですね」と苦笑い。その癖を知らず初コンビで臨んだデイリー杯ニューイヤーCこそ2着に敗れたが、続く京浜盃-羽田盃と連勝。すぐ手の内に入れたあたりがリーディングジョッキーだ。「それだけにまだまだ可能性がある。能力は間違いなく高い馬です」とほれ込む。

 羽田盃ではレース12日前の大井競馬で落馬し左第5中足骨を骨折。それでも「タービランスに乗りたい」の一心で、関係者の理解を得て直前の地元・船橋開催を全休。患部をテーピングで固めて勝利をつかんだ。

 管理する水野貴史調教師は元・高崎競馬のトップジョッキー。同じ苦労を経験してきた北関東の“同志”でもある。枠順は【8】枠(15)番に決まった。牝馬のトップクラス4頭も参戦し、まさに南関東の3歳馬頂上決戦。「ちょっと極端な枠になりましたが、与えられたところでやるしかない。ただ追い切りの動きは良かったし、間違いなく状態は前走以上。距離は関係ないし、今回も相手うんぬんではなく、最後までレースに集中して走れるか、自分との戦いですね」と気持ちを引き締める。いよいよ戦闘モードへ。努力を積み重ね、ようやく見えてきた全ホースマン、あこがれの頂。まさしく人馬一体となった時、またひとつ、夢がかなう。(デイリースポーツ・村上英明)

関連ニュース

編集者のオススメ記事

オピニオンD最新ニュース

もっとみる

    ランキング

    主要ニュース

    リアルタイムランキング

    写真

    話題の写真ランキング

    注目トピックス