【芸能】ご当地アイドルが担う役割

 たった1年だが、その違いは大きかった。1月17日、阪神・淡路大震災の発生から21年目を迎えた神戸の街。昨年、20年目には市内の至る所で行われていたイベントは、ほとんどが姿を消していた。

 そんな中、最も被害が甚大だった地区の一つである長田区の西神戸センター街では、12回目を迎えた震災復興イベント「ONE HEART」が行われ、1000人の観衆を集めた。芸能界、野球界からさまざまなゲストが集ったが、阪神タイガースの2選手を含め、そのほとんどが出身地や年齢の関係で、直接被災した記憶を持たない面々だった。

 そんな中、3年連続でこのイベントに登場したのが、神戸発のご当地アイドルグループ・KOBerrieS♪。メンバー5人中、最年長の山下香奈(22)が震災の1年半前に生まれ、キャプテンの間中芽衣(21)は震災発生のわずか12日前に誕生した。間中は「もちろん、はっきりは覚えていないけど、大震災の中、お母さんが必死に私を守ってくれて、今があるんだと痛感しています」と話した。

 全国各地にご当地アイドルが誕生し、「アイドル戦国時代」はさらに激しさを増していると言われる。だが、「ご当地アイドル」を標榜している以上は、ただ戦いに勝ち抜けば良いというものではないだろう。地元の歴史や魅力などを全国に伝え、他府県の人間を呼び込むことも、大切な仕事だ。とりわけ被災地に拠点を置くKOBerrieS♪は、薄れつつある震災の記憶を外部へ、そして後世へと伝える“語り部”としての責任も背負っている。

 現在はCDも全国で発売し、イベントも各地で行う。だが彼女たちの活動の芯から、震災復興への思いが途切れたことはない。だからこそ「21年目」の現状を、間中は「去年、震災から20年を迎えて、そこで終わってしまったイベントも多くあると聞きます。でも、絶対に風化させてはいけないことだと思うんです。震災を風化させないように、私たちの活動で全国の皆さんにを伝えてきたい」と、一種の失望とともに熱っぽく語った。

 もちろん、いつまでも震災の記憶にとらわれてはいられない-という考えがあるのも確かだ。神戸出身で、今年も1月17日に、通算21回目となる復興ライブ「KOBE MEETING」を行ったシンガー・ソングライターの平松愛理(51)は、「地元のラジオ局でプロモーションをするときに『震災』という言葉を使わないでほしいとの要望が多くの局からありました。『もう未来に向かってるんや、もう振り向きたくないねん』って。傷口を余計に広げているのか、もうやめようかとも思いました」と吐露したことがある。その一方で「風化というのは恐ろしいもので、震災から3年もたつと、東京でも、1月17日だから神戸に帰ると言っても『何で?』という反応です。阪神・淡路大震災と言えば、『ああ』、となるんですけど…。特に東日本大震災が発生してからは、新鮮な話を聞いているようなリアクションで受け取られている気がします」と現状も口にしていた。

 地震に限った話ではないが、天災やアクシデントなどを「風化」させてしまっては、その後の対策にもつながらない。だが、記憶には残しつつ「消化」することも、大切だということだろう。そしてその「消化」の一助を担っているのが、KOBerrieS♪を初めとする“語り部”たちと言える。「震災を知らない人間が…」という口さがない批判を浴びることもあるというが、育った環境からして、別の土地に育った人間よりは、潜在的な経験が豊富なのは間違いない。また、直接知らない世代だからこそ、ニュートラルに伝えることができる部分もあるし、直接知らない世代に伝えて行かなければならないことだからこそ、彼女らが語り部を務めることの意義は小さくない。

 KOBerrieS♪の副キャプテン・伊藤優里(22)も「悼式に参加する人が少なくなったり、21年目でこんなに大きく変化するとは思っていませんでした。21年たった今だからこそ、1年に1回だけでも震災復興イベントを続けて次の世代へ語り継いで風化させないようにすることが大事だと思いました」と、思いは同じだ。自分の街を背負い、それぞれの街の“未来の担い手”となってこそ、ご当地アイドルの存在意義があるのではないだろうか。(福島大輔)

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