【芸能】第2回松田優作賞の選考大詰め

 今年2月開催の第88回米アカデミー賞外国語映画賞に日本代表として唯一ノミネートされた作品は、安藤サクラ主演の「百円の恋」だ。昨年12月発表の最終候補入りは逃したが、2015年にハリウッドで最も評価された日本映画ということに変わりはない。実はこの作品、ハリウッド進出への足がかりをつかみながら、病に倒れた故松田優作さんの魂が“世に出した”といっても過言ではない。そんな背景があった。

 「百円の恋」は、優作さんの故郷・山口県で開催されている『周南「絆」映画祭』に創設された「松田優作賞」の第1回受賞作(12年)。俳優の名を冠しているが、演技賞ではない。生前、自身の出演場面だけでなく、常にプロデューサー的な思考で作品全体を俯瞰(ふかん)して捉えようとした優作さんは、何よりも脚本にこだわったことで知られる。その魂を継承するオリジナル脚本を募集し、故郷の山口県から発信しようという地元映画ファンの思いから生まれた賞である。

 15年9月初め、山口県周南市内の喫茶店で、周南映画祭実行委員会の大橋広宣委員長にお会いした。「日本じゃないんですよ。“アメリカの”アカデミー賞ですよ!」。偶然にも、米アカデミー賞外国語映画賞の日本代表に選ばれたというニュースが流れた翌日のこと。大橋氏は興奮冷めやらぬ声をあげた。

 大橋氏は選考当時の記憶をさかのぼる。151作の中から5本に絞られた最終選考には、優作さんの夫人で女優の松田美由紀、公私ともに優作さんを支えた映画プロデューサーの黒澤満氏と脚本家・丸山昇一氏が選考委員に加わった。最終的に残った2本の評価は二分した。そこで、丸山氏が「優作に聞いてみる」と目をつぶり、まさに“天から降りてきた”インスピレーションによって選ばれた1作が「百円の恋」だったという。受賞した足立紳氏が脚本家人生をかけた作品だった。

 第2回の松田優作賞は、今年1月23~24日開催の同映画祭で最終候補作が発表される。大橋氏は「今回の応募は72作。前回の半分以下ですが、しっかりと脚本の形になっている作品が増えた。確実に『百円の恋』がハードルを上げたのだと思います」と明かす。

 「百円の恋」の劇中、安藤が黙々と練習するボクシングジムの頭上に掲げられた「Hungry Angry」(渇望、怒り)という言葉が物語とリンクして印象に残った。まさに、優作さんが当時の日本映画界の状況に“怒り”を込め、渇望した世界観がこの作品に引き継がれていたように思う。再び山口県から発信される第2回作に注目している。

(デイリースポーツ・北村泰介)

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