好ペース配分の騎手は武豊と加藤、岩崎

 何を考えて乗ってんねん。紙くずになった馬券を怒りを込めて折り曲げ、頭の中をあらゆる罵詈(ばり)雑言が巡りに巡ったことは誰にでもあるはずだ。

 最後方でポツン。そんなの俺が乗ってもできると言いたくなるが、「予測できなかった自分が悪い」と己を責めれば少しは諦めがつく。無謀なペースでの大逃げ。あれも勝負に出たようには感じるので、個人的には許容できる。

 腹が立つのは末脚届かずのケースだ。いわゆる“ため殺し”というやつである。レース後に「前有利な流れになったので」なんてコメントをされると、じゃあ前に行けばいいのに、と体験乗馬程度しかやったことのない自分は思ってしまうのだが、とあるトップジョッキーに昔、「そんな単純なものちゃうで」と一蹴されてしまった。

 ペースが速いのか遅いのか。プロたる騎手は精密な体内時計を内蔵しているはずで、分かって当然のはず。そう思い込んでいたが、どうも違うらしい。某中堅騎手に聞くと「いや…僕はあんまり分からないんですよ。手応えがいい馬に乗ると、遅く感じますしね。手応えのない馬なら、集団から置かれるので速く感じる。頭でラップタイムを計測しながら走れる人はすごいと思います」と返ってきた。

 こんな意見もあった。「全体のペースよりも、馬のリズムの方が大事。少々速い流れでも、そのまま押し切っちゃう馬もいるし、その逆のタイプもいますからね」。まあ、それはそれで納得できる部分もあるか。

 「調教のときは、完歩をカウントしますけど」という騎手もいた。「15-15なら、1Fで33~35完歩。跳びが大きい馬は32完歩ぐらいですね。ただ、競馬の最中は数えないでしょう」。ゲートに気を使ったり、馬の動きを確認したり、ポジションを取りに行ったり…調教と違って、競馬騎乗中はいろいろと忙しい。ペースに限らず、優先事項はそのときそのときによって違うというわけだ。

 ただ、「アノ人は正確なラップを刻んで競馬しているはず」という声は多く聞かれた。話を聞いた騎手、ほぼ全員から挙がった名前は予想通りというか、やはり“武豊”だった。「ハナに立つとストンとペースを落とす人もいるけど、ユタカさんの場合は違う。逃げたときには、速くも遅くもない、絶妙な運び方をしますね」。

 やっぱりユタカ様はすごい、で終わってもいいのだが、それでは当たり前過ぎて締まりが悪い気もするので、ペース配分に長けていると感じる若手ジョッキーを2人ピックアップしておく。1人は今年デビューの加藤祥太(18)=栗東・庄野=だ。戦績を調べると、全勝ち鞍18のうち、過半数の10勝が1700~2400メートルでのもの。短距離戦よりも、駆け引きが重要になる中距離戦で結果を出している点を評価したい。

 もう1人は3年目の岩崎翼(21)=栗東・河内=で、こちらも得意な条件は中距離寄り。56勝中33勝をコーナーが4つのコースで挙げている。先週の小倉でも、馬券圏内(3着以内)に入った3鞍は1700~2000メートルだった。

 夏競馬もいよいよ今週でラスト。キラリと光る騎乗を見せてきた若い2人が、秋以降も活躍する姿を期待したい。

(デイリースポーツ・長崎弘典)

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