Wエース、小笠原と吉田の“補完関係”

 夏の甲子園は、東海大相模の優勝で幕を閉じた。名門に45年ぶり2度目となる深紅の大優勝旗をもたらした中心には、今秋ドラフト候補コンビの最速152キロ左腕・小笠原慎之介投手、同151キロ右腕・吉田凌投手がいた。エースの座を競い、入学以来、切磋琢磨(せっさたくま)してきた2人。取材者の立場から見ると、互いを補い合う見事な“補完関係”があったように感じてならない。

 ともに中学時代から全国舞台で活躍していた逸材。しかし、高校で“おいしいところ”を持っていったのは、吉田だった。1年夏の神奈川大会では、初登板した4回戦で5回参考完全試合。準決勝で149キロを計測して脚光を浴びる。そして、2年夏の神奈川大会決勝で20奪三振の快投。上級生2人、小笠原とともに形成した“140キロカルテット”の中でも、注目度は飛び抜けた存在になった。

 小笠原は1年冬に左足首を負傷。走り込みが不足し、2年春には左肘を痛めた。同夏は要所で好投し、才能の片りんを見せたが、吉田ほどの取り上げられ方はしなかった。

 印象的だったのは、小笠原がそんな状況を自然体で受け止めていたことだ。「派手なのはアイツに任せます。僕は『安定感の小笠原』でいいんですよ」。昨夏以降、何度となく、同じセリフを聞いた。多感な高校生。ライバル心むき出しとまでいかなくても、多少は意識する発言や態度があって普通だが、最後までそれは感じられなかった。

 利き腕も違えば、投手としてのタイプ、性格も違うことを深く理解していたからなのかもしれない。「アイツも大変だと思いますよ」。今春県大会中に話を聞いた時、小笠原は吉田に視線を向けてつぶやいた。20奪三振以降、常にその数字に見合う快投を期待される重圧。相手校の包囲網を破るため、奪三振が多い投球スタイルからの脱却を図ろうともがく相棒の心中を推し量る言葉を連ねていた。

 自身の成長に、欠かせない存在だったのは間違いない。中学時代の実績で「テングになっていた」という入学当初、吉田の投じるボールに衝撃を受け、意識は変わった。脚光を浴びる右腕がいたおかげで、静かに着実に実力を磨ける環境に身を置けた側面もある。一人きりでは、3年時に見せた伸びしろも変わっていただろう。

 一方の吉田も、小笠原の存在の大きさを、事あるごとに口にしていた。「いや、もう本当に“二枚看板”とか言われているのが、小笠原に申し訳なくて…」。甲子園の組み合わせ抽選会では、本気で恐縮していた。

 おしゃべり好きで人懐っこい右腕だが、自信家ではない。昨秋以降は1年時のような球速が出なくなった。横には、プロ顔負けの真っすぐを投げ込む相棒がいる。「ストレートはどういう意識で投げてる?」。助言を求め、リリースの意識を確認すると、キレのある直球を追求した。「お互いのいいところを教え合えた。小笠原がいて良かった」。甲子園の開幕前、しみじみと話す声には実感がこもっていた。

 「最後に持っていくのは吉田ですよ。『吉田あっての小笠原』ですから」。甲子園決勝の仙台育英戦の九回に千金の勝ち越し弾を放ち、胴上げ投手になったのは、直前までそう言っていた小笠原だった。決勝の登板機会がなかった吉田は「“持っている男”は違いますね」と、苦笑していた。

 認め合い、相棒が苦しむ時は自分が引っ張り、2年半を過ごしてきた。悲願の日本一にたどり着けたのも、互いにないものを持つ2人だったからこそ。満面の笑みを浮かべて並ぶWエースの姿に、心からの拍手を送りたくなった。

(デイリースポーツ・藤田昌央)

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