プロ野球の登場曲に隠されたドラマとは

 プロ野球の野手が打席に入る際や、投手がマウンドに上がる際に流れる“登場曲”がある。DeNAの練習中にこの“登場曲”のメドレーが流れた。中畑監督が、ある曲のフレーズを聴いて言う。「これ、だれの歌?」。「黒羽根の登場曲です」という答えを聞くと「“昭和最後の侍”って歌ってたぞ?あいつが?」。不満の色を浮かべた。

 ある日の試合前のベンチ。DeNAの黒羽根利規捕手は、訪問者と、ガッチリ握手を交わした。右手には、杖(つえ)が手放せないその訪問者は「導楽(どうらく)」という。職業・レゲエアーティスト。黒羽根が打席に入る際の登場曲「Black Wing Anthem」を作った、その人だった。

 2人は共通の知人の仲介で知り合った。神奈川県鎌倉市出身の導楽は湘南、横浜、都内を中心に活動する。横浜市出身の黒羽根も藤沢市の日大藤沢高で学生生活を過ごした。湘南、横浜という共通項が縁で、登場曲の作成に至った。昨年7月から使用。今年3月末から音楽配信されることになった。

 「曲を作る時に、連絡を取り合いました。自分の言ったフレーズも入っているんです」。黒羽根は、仕上がった曲への思い入れを口にする。導楽は「『昭和最後の侍』という歌詞があるんです。バットを刀に置き換えて、戦うイメージで作りました」と明かした。

 レゲエアーティストとして活躍していた導楽は、14年7月を最後に、ライブ活動を休止している。理由は重度の「頚椎症性脊髄症」のためだった。手や下半身のしびれや麻痺を伴う。日常生活も困難になる重病だった。レーザーによる手術を施し、復帰を目指しているさなかにある。

 「球場で自分の曲がかかることで力をもらった気分になります」。導楽は言う。その日、「きょうは結果を出して勝ちます」と誓った黒羽根は2打数無安打1四球。試合も逆転負け。残念ながら、絵に描いたようなストーリーは生まれなかった。

 黒羽根は昨季、故障した時期を除いて1軍に帯同し、ほとんどでスタメン出場。正捕手の座をつかんだ。売りは強肩。低かった打撃面の評価は、昨季の打率・264で覆した。その“刀”も、鋭さを増してきている。

 何気なく聞き流すかもしれない“登場曲”。その中に1つのドラマがある。

(デイリースポーツ・鈴木創太)

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