宇良の“居反り魂”大技が可能な理由

一番出世披露を待つ間、リクエストに応えて手のひらを見せる宇良和輝=ボディメーカーコロシアム(撮影・開出 牧)
3枚

 舞台裏で“居反り魂”を見た。

 大相撲春場所の前相撲で、宇良和輝(22)=木瀬=が2連勝して一番出世を決めた。12日の一番出世披露で先輩力士の臥牙丸の化粧まわしをして土俵に立つと、観客から一際大きな歓声が上がった。すでに人気と知名度が抜群であることを実感した。

 代名詞となっている居反りという決まり手は、上からのしかかってきた相手の懐に潜り込み、両手で相手の膝を押し上げ、後ろに反って倒すという大技だ。平成以降、幕内の取組では使われていないという。

 大技をいつ繰り出すか、カメラ越しに注目したが、もともと大学相撲日本一、格闘技の世界大会でもチャンピオンに輝いたアマチュア界の実力者。前相撲のデビュー戦は突き落としで白星を飾り、2戦目は押し倒しで連勝。対戦した新弟子との力の差は歴然としており、残念ながら居反りを撮影することはできなかった。

 代わりに、土俵外で宇良の非凡さに接した。他の新弟子と明らかに違っていたのは、集中力だ。前相撲の時間がくるまで一心不乱に体を動かし、股割りや四股を踏んでいた。「運動神経はよくないですけど、相撲の動きはできます。相手のスキを見て攻めます」と言うように、相撲の基本を大切にして努力を重ねてきたことが伺えた。

 テレビやユーチューブで見る限り、アクロバットな相撲を取る宇良は、並外れた身体能力の持ち主だと思っていた。身長171センチ、体重107キロは力士としては小兵だが、どんな秘密が肉体に隠されているのか、興味があった。

 花道の裏通路で化粧まわしをつけて一番出世披露を待つ宇良の姿があった。ファンの撮影に気軽に応じ、人なつっこい笑みを浮かべていた。撮影後、時間があったので肉体の秘密を探ってみた。

 居反りのような大技を可能にするには並外れた背筋力が必要だろう。ところが意外にも「背筋力は180です」。私ごとだが、高校時代の自分ですら180キロあった。瞬発力を生む脚力はどうか。「速くないです。50メートルは8秒台です」と意外な事実を次々に明かしたが、私は納得できない。

 無謀にも力比べを試みた。筋トレ全盛時代(1980年代)の高校野球を経験した私は握力に自信があり、今でも右手は65キロはある。

 手の大きさを比べると、ほぼ同じだったが、厚みが1・5倍はある。握手をすると、グローブのような分厚い手に包み込まれた。

 こちらが力を入れると、宇良も握り返してきた。今まで経験したことのない圧力を感じた。危険を感じ、力を抜いた。

 宇良は憎めない笑顔を浮かべていたが、内に秘めた闘志を私は肌で感じた。素人相手の握力相撲でもスイッチが入ると、“居反り魂”に火がつくのだろう。右手の握力は70キロだというが、数字以上の力と迫力を感じた。柔和な顔に似合わぬ負けず嫌いな一面を垣間見ることができた。

 今は居反りで注目されているが、入念な準備と集中力、負けん気が宇良のバックボーンであると感じた。

 夏場所(両国国技館)から序の口の番付に載る宇良が、大きな力士を相手に、どんな相撲を見せるのか。そして居反りの封印はいつ解かれるのか。目が離せない。(写真と文、デイリースポーツ・開出牧)

関連ニュース

編集者のオススメ記事

オピニオンD最新ニュース

もっとみる

    ランキング

    主要ニュース

    リアルタイムランキング

    写真

    話題の写真ランキング

    注目トピックス