後藤騎手再々復帰へ「あと1回でも」

 その考えにたどり着くまでにどれほどの苦悩があったのだろうか。落馬負傷で戦列を離脱している後藤浩輝騎手(40)が、8日に美浦トレセンの乗馬苑で乗馬用の馬に騎乗。復帰へ思いを語った。「あと何年間乗りたい、どんなレースをしたいではなく、あと1回でもいいから競馬で乗りたい」。ポジティブな発言をすることで知られている後藤から聞かれた言葉。それだけに今回の復帰への道のりがいかに大変だったかが想像できる。

 ここ数年はケガと復帰の繰り返しだ。12年NHKマイルCで落馬して、頸椎(けいつい)と頚髄(けいずい)を負傷。事故から4カ月後の9月8日に復帰したものの、その日の中山3Rの馬場入場時で落馬に見舞われた。当日はそのまま騎乗を続けたが、その後に頸椎を含む複数の骨折が判明。1年間、ムチを振ることはなかった。13年10月5日に東京競馬場で再度の復帰を果たしたが、これでは終わらなかった。今年の4月27日の東京10Rで落馬。第5、6頸椎棘突起(けいついきょくとっき)骨折と診断されて、再び長い休養を余儀なくされた。

 度重なる落馬負傷により、心は折れかかった。頭を支配したのは“引退”の二文字。「引退は常に目の前にあった。復帰なんてものは見えなかった。ムチを握れないのは致命的だからね」と当時の心境を振り返る。入院直後はペットボトルの飲み物さえ持てない状態。まともに動けない期間は2カ月も続いた。「家族に心配をかけて、自分も痛みに耐えながらジョッキーをやる価値はあるのか。自問自答する毎日だった。これまで引退は心の中で考えたことはあっても、口に出して言ったのは今回が初めて」と胸の内を明かす。

 完全に追い詰められた状態。だが、後藤は再び動き出す決断を下した。その一歩を踏み出せたのはファンの後押し。多くの声援が勇気を与えた。「昨年の10月に復帰したときの東京競馬場での歓声は今でも忘れられないし、今回の事故後も多くの人から励ましの言葉をいただいた。待っていてくれる人がいると思った」と声を震わせる。そこで出てきたのが冒頭のひと言。ファンにもう一度、自分の勇姿を見てもらいたい。このままでは終われない。あと1回でもいいから…。

 4日に約4カ月間リハビリを続けた栃木県の塩原温泉病院を退院。現在は復帰に向けてのトレーニングを行っている。「近いうちに競馬で騎乗できるイメージを持って、今はいろいろとやっている。いつとは明言できないが、復帰が近いことは感じとってほしい」と今後の展望について語る。これほどファンの多い騎手は珍しく、競馬界にとって必要な騎手であることは間違いない。記者が言うことではないが、復帰したときは大きな声援を送ってほしい。なぜならそれが後藤にとって血となり肉となるからだ。(デイリースポーツ・小林正明)

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