ぶれない育成で日本のサッカーをつくれ

 ドイツの6大会ぶり4度目の優勝で幕を下ろしたサッカーW杯ブラジル大会は、世界レベルでの潮流の変化を感じさせる大会だった。中でも象徴的だったのは、パスサッカーで一時代を築いたスペインが1次リーグで敗退し、相手のボールを奪ってからの速攻を主体とするチームがドイツを筆頭に好成績を残したことだ。この現象を、10代の選手を育てる現場の指導者はどうとらえたのか、日本サッカー協会の理事も務める暁星高校の林義規監督に話を聞いた。

 まず飛び出したのが「びっくりした」という率直な感想だった。「バルセロナを中心にしたようなサッカーが主流でトレンドだったのが、ヨーロッパあたりでそれに対抗する前線からのプレッシャー、連動のすごさがあった。日本がスペインを意識したポゼッションをやっていたが、それに対抗する手だてをどこの国も考えていたと思う」と、変化を感じとったのだという。

 W杯期間中に話題になった「日本らしいサッカー」とは、パスをつないで相手を崩すサッカーと言い換えられる。これは日本代表の強化責任者である原専務理事の志向もあり、10年のW杯南アフリカ大会を制したスペインをイメージしたやり方だが、そのスペインがW杯ブラジル大会では1次リーグで敗退した。一方で、カウンターをメーンの戦術に取り入れたコスタリカ、チリのような国の活躍が目立った。

 だが、林監督は「日本がやってきたことは方向性としては間違っていない」と指摘する。そして、「世界のスピードを目の当たりにすると焦ったり、違った方向性を模索するのは分かるけど、それは違うと思います」と続けた。

 例えば、日本にはアルゼンチンのリオネル・メッシ、コロンビアのハメス・ロドリゲスのような個の力で試合を決める選手がいないと言われているが、これはサッカーの方向性とは直接関係がない。育成年代の場合、むしろ、どんなサッカーを目指すかというよりも、才能豊かな子どもをいかにサッカーに触れさせるかが大事なのだという。

 分かりやすい例を林監督が挙げてくれた。「例えば野球は人気がある。年俸も、知名度も、歴史的に充実している。もしも、清原選手(元西武‐巨人‐オリックス)ほどの運動能力の選手がサッカーへ向かえば非常に大きい。今で言えば糸井選手(オリックス)の身体能力はものすごい。あのクラスがサッカーをやり出したら、という思いはある」。子どもたちの人気を二分する野球とサッカーだが、育成現場の肌感覚では、体格・体力的にずばぬけた選手がサッカーを選ぶケースは十分でないようだ。

 これまでに育成年代の現場では、小学校年代の「全日本少年サッカー」で1人あたりのプレー機会を増やすため11人制から8人制に変更したり(11年大会から)、高校1年生の出場機会を確保するため、国体の少年男子サッカーの年齢制限が18歳以下から16歳以下に引き下げられたりと、数々の工夫を重ねてきた。戦術面でも全国規模のリーグ戦「プレミアリーグ」ではパスサッカーを志向するチームが増えてきたという。日本のサッカーの方向性は、少しずつ根付いている。

 林監督は「(メキシコ五輪得点王の)第2の釜本(邦茂)さんを待とう、なんて言われていたけど、何十年たってもなかなか出ないんだから。マニュアルをつくって、それにのっとって指導をしたら育つ、というのとは違う」と訴えた。1人でも多くの子どもたちがサッカーを志す環境をつくる。A代表の監督が交代しようとも、育成年代の指導法にブレは禁物。ここが我慢のしどころだ。

(デイリースポーツ・広川 継)

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