バーゼル移籍、柿谷の思いとは…

 スイス1部リーグの強豪バーゼルに完全移籍した日本代表FW柿谷曜一朗(24)が、C大阪に別れを告げスイスへと旅立った。15日の川崎戦後に行われたセレモニーでは、何度も言葉を詰まらせながらサポーターに自らの思いを伝え、涙で頰を濡(ぬ)らした。

 7日に移籍が発表されてから、記者会見(9日)こそ行われたが、柿谷は多くを語らなかった。自分の気持ちを直接、サポーターに伝えたかったからだ。「何よりもまずサポーターに謝りたい」。柿谷はそう漏らしていた。

 「森島(寛晃氏・現C大阪アンバサダー)さんに『つけてくれ』と言われた時は泣きそうになった」とまで言った背番号8。セレモニーで「自分から8番のユニホームを脱ぐことを、どうしてもしたくなかった」と語ったように、最後まで悩み抜き、移籍決定後には「めちゃくちゃ苦しかった」と明かした。

 「8番をつけたら海外に行くという流れを止めるべきやと思っていたし、それが当たり前と思っていた」。強い覚悟で背負ったエースナンバーだったが、思いを遂げることができなかった。抱え切れない無念さが、涙となって溢(あふ)れたのかもしれない。

 柿谷はセレモニーで「もっと強くなりたい」とも語った。川崎に敗れたことで中断期間を挟みリーグ戦3連敗となったC大阪は、現在13位に沈んでいる。柿谷自身も14試合1得点でチームを離れることになった。

 「今、こうやって結果が出ない時に、自分だけではどうにもできなかった。周りは『曜一朗は変わった』『大人になって帰ってきた』と言ってくれるけど、やっぱりまだまだ成長していないし、自分は弱いんやと感じた。海外でプレーすることで、自分を変えられるのかどうか分からへんけど、やる価値はあるだろうし、自分一人でこのチームを支えられるような存在になるには、色んな景色を見なければいけないと思うようになった」。移籍へと傾いていった胸中を、柿谷はそんな風に振り返った。

 「強くなる」とは、得点を重ねてチームに勝利をもたらすことだけではない。クラブが苦境に陥った時、全てを変えていけるような絶対的な存在。それが柿谷の言う「8番の似合う選手」なのだろう。

 セレモニーの途中、柿谷が向かったゴール裏には一部サポーターから「8番の価値 その程度?」という横断幕が掲げられた。柿谷に対して向けられたものなのか、フロントに対してなのか、真意は定かではないが、柿谷本人も目にしたはずだ。「色んな思いを僕に持っているサポーターもいると思う。『8番の重みはそんなものか』とも言われた。きれいな形でというのはなかなか難しいと思う。ただ、これからもどんな形であれ、自分がどういう思いでやっているのかというのはサポーターには伝えていきたい」と前を向いた。さまざまな苦悩や葛藤を飲み込み、今後は遥か欧州からプレーで理解を求めていくことになる。

 新天地での背番号は「14」に決まった。昨季まで主将を務め、ブラジルW杯にも出場したスイス代表MFシュトッカー(ヘルタ・ベルリンへ移籍)が背負った番号だ。チームの期待の現れだが「森島さん(8番)と西澤(明訓)さん(20番)を足して2で割ったような選手になりたい」と話す柿谷にとってもこの上ない背番号。「最高だと思う」と喜びを隠さない。旅立つ柿谷の胸元には、これまでの「8」ではなく「14」をかたどった新たなネックレスが輝いていた。

 「8番がもっともっと似合う選手になって帰って来たい」と涙ながらに誓った。「思い残すことはたくさんあるけど、今のセレッソの現状を変えるために自分が決断した」。そんな言葉も残した。しばしの別れ。柿谷の思いは、サポーターに届いただろうか。

(デイリースポーツ・山本直弘)

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