マー君のメジャー1年目成績予想は…
「そうですねぇ…」
そう言ったきり、相手はしばらく黙ってしまった。大リーグ、ナショナル・リーグ球団のあるスカウトへの電話取材。「今季のタナカの成績をどう予想しますか?」。日本球界にも精通している、この道20年のベテランは、実際にシーズンを通して田中将大投手を調査し、自身のボスであるゼネラルマネジャーにレポートも提出していた。
「BREAKING(速報)」
米スポーツ専門局、FOXスポーツの敏腕記者、ケン・ローゼンタール氏が自身のツイッターで、田中将大投手がヤンキースと7年1億5500万ドル(約162億円)で合意したとの第1報を伝えたのは米東部時間の今月22日午前9時40分。球団名はともかく、破格とも言える契約内容は、取材の過程である程度の数字は予想していた筆者でも心拍数が上昇するのが分かるほど、衝撃的なものだった。
だから、どうしても聞きたかった。大リーグに関わっている人間が、今季のタナカの成績をどう予想しているのか、を。
20秒ほどの沈黙のあと、ベテランスカウトはこう言った。
「13勝9敗、防御率は3点台後半、いや、4点台前半までいくかもしれません。防御率が2点台なら10勝10敗でもOKだと思う」
正直、拍子抜けした。
日本で無敵を誇り、元所属球団への譲渡金2000万ドルも含めると180億円を超える金を動かした投手である。ついつい舞台がメジャーに変わっても連勝街道をひた走り、躍動する背番号「19」の姿を期待してしまうが、そのスカウトは冷静だった。
「メジャー1年目はいろんなことにアジャストしなければいけない。ボール、マウンド、調整方法、球団のシステム、生活環境、文化、言葉。数え切れないほどたくさんある。敵地で投げればブーイングも浴びるだろうし、投球内容によってはホームでも同じことが起こりうる。そんな中で結果を出していくことは並大抵のことではない」。
そのスカウトは「それに」と言って、もう1つ理由を加えた。
「ヤンキースがいるアメリカン・リーグ東地区はどこも強いし、いい打者がそろっている」
昨季の覇者、レッドソックスにはオルティスとペドロイアがいる。レイズにはロンゴリアとマイヤーズ、オリオールズにはデービスとジョーンズ、ブルージェイズにはエンカーナシオンとバティスタ。
力と巧さを兼ね備えた、メジャーを代表する強打者がそれぞれのチームに少なくとも2人は存在する。『再建途中』のチームはこの地区にはない。どこがプレーオフに進出にしても不思議ではない戦力を備えている。
田中をサバシア、黒田に続く先発ローテーションの3番手、中4日で投げると想定し、今季のスケジュールを確認する。開幕3戦目、4月3日のアストロズ戦、次が同8日のオリオールズ戦、その次が同13日のレッドソックス…。
球団が田中に体調を考慮して休ませたり、年間の投球回数も制限したりすることも考えられるが、シーズン最後まできっちりローテーションを守った場合の登板数は33試合。そのうち、ア・リーグ東地区のチームはほぼ半分の16試合。「もし、タナカがドジャースのようなナ・リーグの球団で投げれば、予想はもう少し上になる」とそのスカウトは言った。
開幕までおよそ2カ月。2月2日(日本時間3日)のスーパーボウルが終われば、スポーツの中心は野球に移行する。ヤンキースのキャンプ地、フロリダ州タンパにはビートライターと呼ばれる番記者はもちろんのこと、旬のネタを追うナショナルライターやコラムニストが集結するのは間違いない。
古くはマリナーズに入団したイチローについて「打率3割を残せたらニューヨークのタイムズスクエアを裸で走ってやる」と宣言し、有言実行した解説者もいた。鳴り物入りで名門球団にやってくる右腕に対し、今回はどんな予想が飛び出すのか。開幕前の楽しみのひとつになりそうだ。
(デイリースポーツ・小林信行)