中畑監督にこだわったDeNA事情

 DeNA・中畑清監督の口から「責任を取らないといけないと思っている」と辞意の言葉が漏れたのは、先月24日に阪神に敗れた試合後だった。昨季は借金39でぶっちぎりの最下位。今季は3日時点で62勝79敗1分、1つ順位を上げたとはいえ、就任以来2年連続でBクラスが確定した。

 人一倍責任感の強い中畑監督にしてみれば昨年の「来年CSに出られなければ私はクビ」という言葉にウソ偽りはなく、その証拠に辞意表明の当日「そういう話をしたが、決意は私の中で変わっていない。責任を取らないといけないと思っている」と辞任の意思は固かった。

 シーズン終盤に、成績不振から指揮官の辞意→球団受諾→新監督候補探し。球界ではごく自然な流れとなるが、DeNAの場合は違った。何としてでも中畑監督に続投して欲しい事情があった。

 続投の正式発表があった3日、DeNA・春田真オーナーは「非常によくやってくださっているし、成長を肌で感じる」と監督としての手腕を評価した上で「チームとして強くなるための必要な補強は当然する」と早くも全面バックアップまで約束したが…。

 中畑監督と言えば、底抜けに明るい性格であり、試合後のダジャレ談話、いわゆる「キヨシ語録」で周囲を明るくする。特に負け試合の翌日のベンチでの「ダジャレ」は、前日の負けを吹き飛ばし、ベンチのムードを一転させる。当日の試合へ向けて気持ちを切り替えるという点で効果抜群である。そして、この「明るいキャラクター」こそが、DeNAが指揮官に求める理想像なのだ。

 昨年の1月には、広島・松田元オーナーが、あいさつに訪れた春田オーナーにこう話したという。「明るいキャラクターで、誰でも知っている名前。新しい球団のスタートさせるにはもってこいの人材じゃろ。中畑監督は大ヒットじゃ」。ゲームをしない層に対しても、十分なアピールをすることができる。

 あるDeNA関係者がこう話す。「以前は取引先の会社に行って名刺を差し出しても、会社名だけで何の会社なのか分かってもらえなかったが、今では、あの中畑さんが監督していらっしゃるゲーム会社の人ですよね。応援していますので、頑張ってください」と取引先との仕事もスムースに運ぶという。

 ゲーム業界はスマホ時代に入り、戦国時代に突入している。以前はSNS上で提供するブラウザ・オンラインで遊べるソーシャルゲームという分野でグリーとともに市場を二分してきた。しかし昨年、未成年者がゲームに熱中し「アイテム課金」にはまった結果、親のお金を使い込むケースも出てきた。いわゆるこの「コンプリートガチャ」が社会問題となった。さらに最近では、ガンホーやLINEがアプリで遊べるゲーム、いわゆる「ネイティブアプリ」を市場に投入。スマホ世代のゲーマーがこちらに軸足を移しつつある。

 そんな荒波にもまれるDeNA社員にとっても、中畑監督は希望の光だという。「もともと野球がすごく好きというわけではなかったのですが、会社が球団を持ち、中畑さんが監督になってから、他の社員を連れ立って、横浜や神宮に、月に2、3回ぐらいは球場に足を運ぶようになりました。中畑さんにパワーを分けてもらっています」(DeNA若手女性社員)

 中畑監督の周りに人が集まる。移動の新幹線ホームで、遠征先の散歩の道中で、ファンがサインをもらおうと長い行列を作る。ファンサービスを第一に考える指揮官は選手たちにも「サインは拒むな」と強く指導している。率先してチームの顔である三浦大輔投手がペンを走らせると、若い選手もそれに続く。

 今春の沖縄キャンプでこんなことがあった。タイガースの応援法被(はっぴ)を着た男性ファンが、お目当ての阪神の練習が休みだったため、DeNAキャンプに流れてきた。サインをねだる阪神ファンにDeNAの選手たちは快く応じたという。この態度に感動したその男性ファンは帰り際「ベイスターズには負けてもエエわ」と言った。実際、今季の阪神はDeNA戦に負け越しが決定しているというオチがつくのだが…。

 春田オーナーは「我々が参入して2年。勝つことも大事だが、それに加えて参入前と比べて(ベイスターズが)報道されることが多くなった。プロ球団だからやっぱり目立たないといけない。意識してプレス対応してくれたことで、情報発信も多くなったと思う。そういう面でも非常によくやってくれたと思う」と中畑監督の人間性に信頼を寄せる。

 選手や球団、そして本社までを明るく元気にする男、中畑清。DeNAは2連続Bクラスぐらいでは手放せない指揮官である。

(デイリースポーツ・鈴木創太、佐藤利幸)

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