「ワールドシリーズ・第６戦、ロイヤルズ１０-０ジャイアンツ」（２８日、カンザスシティー）

　大リーグのワールドシリーズ（７回戦制）は２８日（日本時間２９日）、カンザスシティーで第６戦を行い、ロイヤルズがジャイアンツに１０－０で圧勝。対戦成績を３勝３敗とし、２９年ぶり優勝に逆王手をかけた。「２番・右翼」で４戦ぶりに先発したロイヤルズの青木宣親外野手（３２）は３打数１安打１四球、１打点。シリーズ１０打席目で初安打初打点を記録し、チームに勢いをもたらした。

　欲しい１本がやっと出た。二回。１点を先制し、なおも１死満塁の絶好機。カウント１－２から青木が外角１４８キロのツーシームをしっかりつかまえた。

　打球は三遊間を破る左前適時打。そこから３者連続適時打が飛び出し、一気に７点を奪って崖っぷちに立たされていたチームを生き返らせた。

　無我夢中、ではなかった。青木は初球のストライク、外角低めのカットボールを見逃した。「あそこは振ったらダメ」。打てばどんな結果になるのかを予測できるほど冷静だった。しかし、２球目の内角高め、１４６キロのツーシームを打って出るもファウル。あっさり追い込まれた。

　この日の相手先発、ピービは初対戦となった２２日（同２３日）の第２戦で３打数無安打。そして、この日初回の打席でもカウント１－２から内角球のカットに失敗、空振り三振に倒れている。

　「甘いボールを打つ意識しかなかった」

　３球目をファウルにした後、ボールを挟んでファウル、ファウル。粘って、粘って、７球目を仕留めた。一塁上で大きく手を叩き、仲間たちが絶叫する一塁側ベンチに向かって右手でガッツポーズを見せた。

　「あれね、ちょっと足がつりそうだったんですよ、実は」

　試合後のクラブハウス。青木が苦笑いで振り返ったのは、５球目をファウルにした後、球審にタイムを要求して打席を外した場面だ。

　「最近、軸足（左足）に（体重が）乗ってなかったから、乗せよう、乗せようとしたらつりそうになった。それでタイムを取ったんです」

　打席内で左足に体重が乗っていない－。そこに気付いたのは２日前、敵地サンフランシスコで行われた第５戦の前の打撃練習の時だ。

　バット２本を手にしてケージに入り、１本のバットで２球打った後、もう１本に持ち替えて打ってみた。

　「あれね、自分の感覚を探ったんですよ。悪いところを見つけるために」

　どちらも白木のバット。見た目は全く同じ。違いがあるとすれば、重さか。青木が明かす。

　「１本はヘッドが利くバットです。ヘッドが重いとしっかり体を使わないとバットに振られてしまう。まず室内ケージで打ってみて、軸足の使い方が悪いな、と。フリー（打撃）で打ってみてやっぱりそうだな、と」

　本拠地でのシリーズ第１、２戦は先発で起用されたが、結果は７打数無安打。守備でも精彩を欠いた。場所を敵地に移した第３～５戦は守備重視を理由に先発を外された。

　「ものすごい悔しかった」

　第４戦では２点ビハインドの六回無死一塁の場面で代打で起用されたが、ワンボールから内角球を叩いて一ゴロ併殺打。最悪の結果でチームも完敗した。

　青木がバット２本を持ってケージに入ったのはその翌日だった。

　ワールドシリーズで日本選手がヒットを記録したのは、２００９年の松井秀（ヤンキース）以来、史上７人目だ。シリーズ初安打の喜びを問われた青木はこう答えた。

　「正直言うと、自分にヒットが出たことはそんなに何も思わなかった。ただ、あの場面で打てたことがうれしかった。一気に試合の流れをこっちに持ってくることができた。そういう意味ではうれしかった」

　この日最後の打席となった五回無死二塁の打席はカウント２－１からの４球目、１３２キロのチェンジアップを打って二ゴロだった。９－０の一方的な展開だったが、「狙ってセカンドゴロを打ちにいった」と青木は言った。「９点差でもワールドシリーズだと何があるか分からないという気持ちにさせられる」。追加点は奪えなかったが、その意識をもつ選手のいることがチームの本当の力というものだ。

　地の利を生かしたプレーもあった。両軍無得点の二回２死二塁の守備。右の強打者、モースが放った大飛球をアンツーカーまで下がった後、フェンス沿いに右へ移動しながら落下地点に入って両手でおさえた。

　「ウチの球場は（打球が）入ってくるんですよ。普通は（右方向へそのまま）切れるんですけど、中に入ってくる。確かに難しかったですけど、知ってる球場だからっていうのはあったと思う」

　落下地点を読み切れなければ、相手の先制点につながっていた。適時打同様、価値あるプレーだった。

　本拠地で行われる最終第７戦。「あと１個勝てば優勝。ドキドキしてきました。お願いだから明日は勝ちたい！」。青木がその一戦に全身全霊を傾ける。