カクテル光線に照らされた黒田の“汗”

 チャレンジャーの汗だった。1日のヤクルト戦に先発し、二回2死満塁から上田に走者一掃の中越え三塁打を打たれた広島・黒田博樹投手(40)。後続の川端を一ゴロに打ち取ったが、ベンチに戻る時に見せた苦しい表情は、メジャーリーグで実績を残した強者のそれではなかった。頰を伝う汗がカクテル光線に照らされた。

 私が抱いている黒田のイメージは、いつもポーカーフェースで冷静沈着。メジャーリーグの強打者を多彩な変化球で打たせて取る頭脳派右腕だ。

 しかしこの日は初回から精彩を欠き、先頭の山田に中前打を浴びるなど1死一、三塁と攻め立てられて畠山の三ゴロの間に先制点を献上した。2回を投げ終えた時は、すでにかなりの汗をかいていた。日中は暑かったが、試合開始後は涼しくなり、カメラ席にいた私は上着を着ていた。気温による発汗ではないことは明らかだった。

 三回には雄平に右越えソロを打たれて日本復帰後、ワーストの5失点。しかし、四回に梵の左越え3ランが飛び出すと、黒田は味方の援護に応え、その裏から六回まで無失点に抑えてゲームを作った。序盤は制球に苦しみながら、終わってみれば球数は6回で96球にとどまっていた。この修正能力が黒田の黒田たるゆえんだろう。

 序盤に大量失点したこの日は、復帰後初のナイター登板の影響もあったかもしれない。考えてみれば、慣れ親しんだ日本球界とはいえ、7年間米国生活を送った黒田にしてみれば、その環境に適応していくのも大変だろう。

 復帰後初登板だった神宮のマウンドは、ことしから硬くしたと言われるが、総じて柔らかいとされる日本のマウンドへの対応もその一つ。なにしろ日米ではボールの大きさや手触りから違う。黒田の流した苦渋の汗は、環境の変化との闘いを感じさせた。その一方で四回以降にみせたアジャスト能力の高さに、黒田のタフさをみた思いがした。

 試合後、報道陣を引き連れて球場を後にする黒田が悔しそうにスコアボードを見つめた。一切の言い訳をせず、「やられたらやり返すだけ」と、リベンジを誓った黒田。環境の変化と闘うチャレンジャーの姿が、最下位に低迷するチームに無言のメッセージを送っていた。

(写真と文=デイリースポーツ・開出 牧)

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