郷に入れば郷に従えの落とし穴(上)

 これをご覧になっている皆さんの中にも、いまだにご記憶している方も多いのではないだろうか。

 92年10月17日、アメリカのルイジアナ州のバトンルージュで起きた日本人高校生の射殺事件である。

 ハロウィンのパーティに出かけた留学中の高校生が訪問先を間違えて、別な家を訪問したため、家人に侵入者と判断された。

 結果として、家人に銃で至近距離から発砲され、出血多量で亡くなってしまった。

 銃を身近なものとして暮らしているアメリカ。日常生活では銃をほとんど見ることもない日本。日米の銃への意識の違いがクッキリと浮き彫りになり、痛ましい事件は内外に大きな衝撃を与えた。

 いま、どこの国も観光や仕事などで多くの外国人の人が入ってくる時代になった。

 日本にも中国や東南アジア、さらにはヨーロッパやアメリカから大勢の観光客がやって来ている。

 だが、その一方で我々と彼らでは風俗も習慣も異なるし、言葉もむろん違う。お互いにとっていろいろなことを知り合うことがなにより大事だ。

 善意を持ったもの同士が争うことになるのはたいていの場合、お互いをよく知らなかったということが原因になる。

 プロ野球の世界でも、よくこれだけ選手を獲ってくると思うほど、毎年のように多くの外国人選手が日本にやってくる。

 彼らの獲得に必要な金額は莫大だ。連れてきた選手が、少なくとも3年や5年くらいはしっかり働いてくれれば、それほどの金額にならないのだが、連続契約する選手は半分に満たない。

 あとは1年限り、ひどいのになるとシーズン途中で二軍へ落としてしまったりする。現場サイドの目からは、いろんな不満もあるだろう。

 しかし、外国人選手に接し続けてきた私たちから見れば、「もう少し使いようがあるのではないか」という気持ちが強い。

 むろん、技術的にどうのという基準で言うのではない。「彼らが実力を出せるような扱いをしているのだろうか」という疑問からである。

 同じ日本選手でも、あれこれ細かく言われることを嫌うタイプと、気楽に耳を傾けるタイプがある。

 監督やコーチたちは、そのへんを考えて助言したり起用したりする。だが、日本選手にできて、外国人選手にはなぜそれができないのだろう。

 おそらく、日本の監督やコーチたちは腹の中でこう思っている。

 「彼らは本場のアメリカからやって来たし、優秀だと判断されて高い年俸を取っている。少なくともこれくれいの成績は残してもらわないと…」

 それが叶えられないと、外国人選手に不満を抱くようになる。

 だが、これは彼(外国人選手)にとってマイナス要因にこそなれ、プラスには決してならない。

 大リーグでこれこれの成績だったと言っても、いまスタメンで使える選手を米球界が簡単に手離すわけがない。

 故障とか持病を持っているか(先方は必ずもう完全に治ったというが)老齢化したか、攻守走のどれかが通用しなくなったか、だいたい、そういう原因で出された選手だ。

 むろん、かなりの力を残しているものもいる。しかし、スーパーマンではない。

 助っ人1人の力でチームがガラリと変わることは、めったにあるものではない。

 アイスホッケー関係者に聞いた話だ。「団体競技では、例えばロシアの名選手を連れてきても、他の選手が彼をフルに動かせるほどの力も技もない場合、そのプラスはかなり割引される。

 しかし、これは彼らの責任ではない。本当に強化するつもりなら、FW3人を一組でもってくることだ」

 私はプロ野球チームでも、同じことが言えると思う。

 少年野球に大学の4番打者が入るというなら別だが、アメリカの3Aのやや強いところ、いう日本のレベルに入ってきて、いくら大リーガーだったといっても超人的な活躍をするのは難しい。

 「年俸が高いのだから」という理由も、日米両国にまたがる商談だけに、プラスアルファがつく。

 高くなって当然であり、年俸額をそのまま活躍に結びつけられては彼らも困るだろう。むろん、彼らはそのへんのことは百も承知の上で来日する。

 しかし、日本へ来てみれば想像以上の期待を背負うことになるのだ。=続く=(デイリースポーツMLB解説委員・牛込惟浩)

   ◇   ◇

 牛込惟浩(うしごめ・ただひろ)1936年5月26日生まれ、78歳。東京都出身。早稲田大学を経て64年、大洋ホエールズに入団。渉外担当としてボイヤー、シピン、ポンセ、ローズなど日本球界で大活躍した助っ人たちを次々と獲得し、その確かな眼力でメジャー球界から「タッド」の愛称で親しまれた。2000年に横浜ベイスターズを退団。現在はデイリースポーツMLB解説委員。

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