ジャパンカップ・G1

G1V7手土産

ウォッカ引退も

2009/11/29 東京競馬場

▼第29回ジャパンC・G1
1着 ウォッカ C.ルメール 2:22.4
2着 オウケンブルースリ 内田博幸 ハナ
3着 レッドディザイア 四位洋文 1 1/2

 差はわずかに2センチ。8分間の長い写真判定の末、ルメールとの新コンビで挑んだウオッカが、3度目の挑戦で勝利をつかんだ。JRA・G1・7勝は最多タイで史上4頭目。また一つ、歴史に名を刻んだ。谷水オーナーはレース後、選択肢の一つとして「潔さ」を挙げ、引退の可能性を示唆。その後に鼻出血が判明し、規定によりウオッカの有馬記念(12月27日・中山)への出走が不可能となったこともあり、最強牝馬の去就が注目される。

写真・ウォッカとオーケンブルースリ

ゴール前、激しく競り合うオウケンブルースリ(左から2頭目)とウオッカ(右から3頭目)

ルメール魅せたマジック

日本牝馬が初制覇

 

 限界を超える激走だった。2頭が鼻面を並べた世界戦のゴール板。明暗を分けたのは、わずか2センチの差。ウオッカが執念で府中の死闘を制した。
 

 青い瞳のV請負人が魅せたマジック。初コンビのルメールが、最強牝馬を復活へと導いた。力を温存するように抑えていた手綱から、ゴーサインが出たのが残り300メートルだ。鋭い反応で抜け出したが、オウケンブルースリがゴール寸前で強襲。馬上から降りた、鞍上は“ウイン?”の問いに首を横に振ったほど。勝利は確信できなかった。
 

 約8分間にも及ぶ写真判定だった。「ネガティブな心境。ハーツクライでアルカセットに負けたJC(05年、鼻差)がよぎった」。ルメールはJCで過去に2度、2着と涙をのんでいる。勝利を告げられた瞬間、ストレートに「興奮を抑え切れない。グレートチャンピオン!」と初のJC戴冠の喜びを爆発させた。  2センチ差のVは、ウオッカが昨年制した秋の天皇賞と全く同じだ。「いつもながら、ドキドキハラハラで」。角居師もホッとした表情を浮かべる。JCは一昨年が4着、昨年が3着に終わった。しかも、秋2戦を落とした今年は言うまでもなく背水の陣。主戦の武豊を思い切ってチェンジした。

 

 指名したのは、ルメールだった。「掛かるというイメージを持っていない、ジョッキーに乗ってもらうのもひとつの手かなと思って。私が決めました。イメージ通りに抜け出してくれた」。折り合って距離を克服した手腕を笑顔でたたえた。

 

 騎乗依頼を受けた当時の心境を、ルメールはこう語る。「驚き、同時に誇りに思った」。世界レベルの実力を熟知していたからだ。「1マイルから2400メートルまでの距離で3着以内が多く、安定している。それは力のある印で、質の高いことを意味する」。鞍上は自信を持って決戦に臨んだ。

 

 JRAG1・7勝目はトップタイ。ディープインパクト、シンボリルドルフ、テイエムオペラオーに並んだ。そして、日本の牝馬によるJC制覇は史上初だ。ただ、その代償は大きかった。レース後に運動性肺出血鼻出血を発症。1カ月の出走制限を受けたため、有馬記念出走は不可能となった。繁殖入りか、それとも忘れ物を残したドバイ遠征か―。その去就が注目される。

 

 

 

 

 

写真・角居師、ルメール、谷水オーナー

ジャパンカップを制し喜ぶ(左から)角居師、ルメール、谷水オーナー

【喜び一転…レース後に鼻出血判明、有馬アウト】

 

 衝撃の事実が発表されたのは、勝利者インタビューが終了した数分後のことだった。競走中の鼻出血発症が確認され、規定(1カ月間=12月29日までの出走停止)によりウオッカの有馬記念への出走が不可能になった。
 「この勝利は、騎手の乗り代わりうんぬんといったスポットライトの当たる部分ではなく“チーム角居”の努力の結晶」と、厩舎スタッフをたたえた谷水雄三オーナー(70)。去就については、鼻出血の判明前は「決断の時が近づいているとは思っている。ある意味で潔さも必要かなとも思う」と話す一方で、「ファン投票で1位に推されて惨敗(07年11着)しているし、昨年は出走しなかったから」と有馬記念への思いも口にしていた。
 外傷性ではない競走馬の鼻出血は時として、簡単には看過できないことがある。08年秋華賞馬のブラックエンブレムのように常習化して、引退に追い込まれたケースも。ウオッカの鼻出血は肺からのものだった。幸い、症状としては軽度で、担当の中田助手がレース約1時間後の尿検査の段階で係員に指摘されるまで気付かない程度だった。
 鼻出血の報告を受けた谷水オーナーは「今後のことは角居師と相談して決めたい」と話すにとどまった。だが、焦点となっていたグランプリへの参戦が不可能となっただけに“決断の時”が一気に早まったことは間違いない。

 



オウケンブルースリ 悔し〜い2着


 剛腕の振るう右ステッキは、わずか2センチ届かなかった。ほぼ最後方を追走し直線は大外から豪快に伸びたオウケンブルースリだが、結果は2着。世界制覇は夢と散った。「悔しい。もっとうまく乗ってあげたかった」と内田博は唇をかむ。音無師は強い口調で「4角手前でいったん外に出したのが痛い。あの位置からでは届かない」と話し、悔しさをにじませた。


レッドディザイア 大健闘3着

 

 3歳牝馬レッドディザイアが直線外から追い上げて、コンマ2秒差の3着に入った。四位は「直線はオークスみたいに内があいてくれればと思ったが、そうはいかなかった。でも、外へ出したらよく伸びてくれた」とパートナーの健闘をたたえる。ただ、一方で「よく頑張ってくれたけど、納得はしていない。悔しいね」と強豪相手の好走にも満足感はなかった。

 

 

コンデュイット 有終飾れず4着   


 BCターフ連覇の超大物、英国馬コンデュイットはしぶとい伸びで差を詰めたが4着まで。「スタートが悪くて前半の追走に脚を使ってしまったし、いつもの反応ではなかった。レース間隔が短く、疲れがあったのかもしれません」とムーア。外国馬では最先着を果たしたが、ラストランを飾れなかった。今後は北海道新冠のビッグレッドファームで種牡馬となる。

 

 

スクリーンヒーロー 連覇ならず13着   


 史上初のジャパンC連覇を狙ったスクリーンヒーローは馬群に沈み、13着に終わった。道中は中団でレースを進め、4コーナー手前から進出を図ったが、直線で挟まれて後退してしまった。快挙を逃し、デムーロは「馬に寄られて、驚いてしまった。それがきっかけで置かれてしまった」と肩を落とした。有馬記念には参戦せずに、今後は放牧に出される予定だ。

 

 

 

 

ウオッカ…牝5歳。父タニノギムレット、母タニノシスター(母の父ルション)。馬主・谷水雄三氏。生産者・北海道新ひだか町 カントリー牧場。戦績・25戦10勝(うち海外3戦0勝)。重賞・06年阪神JF、07年チューリップ賞、ダービー、08年安田記念、天皇賞・秋、09年ヴィクトリアマイル、安田記念に続き8勝目。総収得賞金・1、333、565、800円(うち海外28、689、800円)。角居勝彦調教師、C・ルメール騎手ともに初勝利。

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