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天皇賞(秋)

ウオッカ レコードV
列島酔いしれた大激戦

2008/11/02 東京競馬場

▼第138回天皇賞(秋)
1着 ウオッカ 武豊 1:57.2
2着 ダイワスカーレット 安藤
3着 ディープスカイ 四位

 3強が死力を尽くした。直線は横一線の壮絶な叩き合い。ディープスカイと馬体を合わせ外から伸びたウオッカが、逃げたダイワスカーレットとの長い長い写真判定の結果、わずか2センチ差で第138代天皇賞馬に輝いた。勝ち時計の1分57秒2はレコード。昨年のダービー、今年の安田記念に次ぐ牝馬の牡馬混合G13勝は史上初。鞍上の武豊は天皇賞単独トップの11勝目(春6勝、秋5勝)。ディープスカイは2着から首差の3着だった。

ウオッカ(左)ダイワスカーレット(右端)ディープスカイ(中央)


ゴール後、ウオッカ(左)の武豊は最内のダイワスカーレット(右端)に視線を向ける(中央の白帽はディープスカイ)

史上初の快拳!牝馬で牡馬混合G13勝目

写真判定15分


 約15分間にも及んだ、長い長い写真判定。ウオッカか、ダイワスカーレットか―。関係者が息をのんで見守るなか、決着はついた。

 検量室内のホワイトボードの1着欄に馬番14が記された瞬間、ウオッカの勝負服を着たまま待機していた武豊が「ヨシッ!」と、両手のこぶしを握りしめガッツポーズ。百戦錬磨の名手も興奮を抑え切れなかった。「うれしいです。生きた心地がしなかった」。表彰式の前にはファンとともに万歳三唱。何度もスタンドの大観衆に手を振った。

 競馬史に残る死闘となった。ラスト1F、サバイバルレースを生き残ったのはやはり3強だ。安藤勝が、スカーレットを絶妙なタイミングでスパートさせる。外からはユタカが右ムチ、四位は左ムチをうならせて、ウオッカとディープスカイが一緒に伸びてきた。

 最後の最後は精神力の勝負。ラスト10メートルでスカイが古馬の底力の前に力尽きた。最強牝馬2頭の一騎打ち。勝利の女神は、執念で2センチ前に出たウオッカにほほ笑んだ。タイムは1分57秒2のレコード。記録にも記憶にも残る名勝負だった。

 「4角では抜群の手応え。ウオッカの持ち味を出してあげることだけを考えました」。外めの枠から難しい競馬を強いられたが、道中は絶好の7番手をキープ。しっかりと折り合い、勝負の瞬間を待った。わずかなミスも許されない状況下で武豊の技がさえ渡った。

 「これだけの馬を任されて正直プレッシャーはあった。勝利の味?しびれましたね。もう、同着でもいいと思った」。これまでウオッカには3回騎乗し、2着2回が最高。結果を残せず悔しい思いをしてきた。ユタカ自身も今年は大舞台で活躍できず、ここまでJRA重賞はわずか2勝。「苦しい時間だったが、助けてもらった。歴史的な牝馬というか、名馬ですね。感謝の言葉しか出ない。ありがとう、と」。天皇賞を春秋11勝の“盾男”にとっても、格別の勝利となった。

 角居師も思いは同じ。これまで宿敵スカーレットには1勝3敗。「ここで負けると次はないなと思っていた。もう1度、自信を取り戻しました」。背水の陣で臨んだ一戦を制し、安どの表情を浮かべた。

 次のターゲットはジャパンC(30日・東京)。指揮官は「まだ折り合いに課題がある。ゆっくりと、落ち着いてつくっていきたい」と口元を引き締めた。世界の強豪を相手に、再びファンを陶酔させる走りを披露する。

決勝スリット写真


決勝スリット写真

【次走JCで世界制圧よ!谷水オーナー鞍上は明言せず】

 その瞬間、疲れは心地よいものに変わった。「写真判定が長くて疲れた。口取りの時も、ウオッカは平然としているのに僕の息が上がっていた」。そう言って周囲を笑わせた谷水雄三オーナー(69)。「世紀の名勝負。ダイワもすごい馬だ」とライバルをたたえた。
 

 次戦については「間隔を考えればマイルCSではなく、ジャパンCが妥当」と、角居師と意見は一致している。そうなると注目はジョッキーだ。武豊のお手馬メイショウサムソンも出走を表明しているだけに「その件に関しては、ひと山もふた山もありそうですね」とトレーナー。ユタカもジャパンCに関しての質問には「今は終わったばかりで、ただホッとしているだけなので…」と明言を避けた。
 

武豊(右、左端は角居師)


勝ってホッと胸をなで下ろす武豊(右、左端は角居師)=東京競馬場

    

スカーレット   首差


華麗な逃げも…

 長い長い写真判定が終わると、ダイワスカーレット陣営の表情に影が差した。わずか2センチの差で逃した盾の栄誉。それでも歴史に残るレースを作り出した華麗な逃げは、ファンの脳裏にくっきりと刻まれた。

 十分に乗り込まれ盤石の態勢が敷かれた大一番。しかし、いつものスカーレットとは何かが違った。「今日は最初からテンションが高かった。調教もそうだったけど、力んで走っていたね。それでもラストはもう一回伸びるんだから大したものだよ」。安藤勝はパートナーをたたえた。
    

 松田国師は「力んで走っていた分。それでも相当、力があると改めて思いました。勝ったウオッカは(自身が管理した)タニノギムレットの子。強い馬ですから」と勝者の力を認める。それでもウオッカとの対戦成績は3勝2敗とまだ勝ち越している。

 指揮官は明言こそ避けたが、このあとは有馬記念(12月28日・中山)へ、そして来年は海外遠征のプランもある。もう“負けて強し”のレースなどしない。世界に羽ばたく前に、暮れのグランプリで頂点を目指す。

スカイ   鼻差


確かな手応え

 敗戦の中にも確かな手応えは残った。3強の一角を担った今年のダービー馬ディープスカイはタイム差なしの3着。ウオッカと馬体を並べながら追い込んだがわずかに届かなかった。「今日は馬場を考えてゲートを出していった。4角を回っていい手応え。あそこまでいったら勝ちたかった」。四位は悔しさをのぞかせながらも「ダービー馬として恥ずかしくない競馬だった。次につながる」と前を向いた。

 昆師も同様の姿勢だ。「弱い世代と言われたけど、この馬は抜けている。今日は予想通りのスピード決着。でも二千四百メートルになれば話は別でしょう。次が本当の目標。ジャパンCで取り返したい」。片手にかかった最強馬の座を今度はガッチリとつかみ取る。


カンパニー   


最速上がり魅せた

 3強に次いでの4着は11番人気カンパニー。4角では後方2番手から、メンバー最速の上がり3F33秒5の末脚で追い込んだ。健闘に見える結果にも横山典は納得していない。「直線入り口でもう少し踏み込めていたら…。勝てたレースだよ。悔やまれる」と顔をしかめた。また音無師は「体は戻っていたし、これなら“イケる”と思ったんだが…。流れが向かなかったね」と悔しそうだった。

ウオッカ…牝4歳。父タニノギムレット、母タニノシスター(母の父ルション)。馬主・谷水雄三氏。生産者・静内 カントリー牧場。戦績・17戦7勝(うち海外1戦0勝)。総収得賞金・758、036、000円(うち海外28、010、000円)。重賞・06年阪神JF、07年チューリップ賞、日本ダービー、08年安田記念に続き5勝目。角居勝彦調教師は初勝利、武豊騎手は89年スーパークリーク、97年エアグルーヴ、99年スペシャルウィーク、07年メイショウサムソンに続き5勝目。

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