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日本ダービー

スカイ 
変則2冠

2008/6/1 東京競馬場

▼第75回日本ダービー
1着 ディープスカイ 四位 2:26.7
2着 スマイルジャック 小牧 1 1/2
3着 ブラックシェル 武豊 3/4

 鬼脚と呼ぶにふさわしい爆発力で、1番人気ディープスカイが05年生まれのサラブレッド8150頭の頂点に立った。NHKマイルC―ダービーの変則2冠達成は、04年キングカメハメハに続く快挙。あえて皐月賞をパスし、府中の大舞台に照準を定める見事なさい配を見せた昆師はレース後、来年の海外挑戦プランを明かした。12番人気スマイルジャックが“涙の”2着。武豊ブラックシェルは1角での不利が響き3着に敗れた。

ディープスカイ

直線一気に突き抜けたディープスカイが日本ダービーを快勝=東京競馬場

皐月賞パスが奏功!

昆氏してやったり「こういうローテーションで良かった」


【海外挑戦視野】

 いつもの冷静な顔が、少しばかり緩む。NHKマイルCで初めてG1制覇を飾ったばかり。今度は競馬界の頂点レース・ダービーで1番人気という重圧を背負った。そのプレッシャーをはねのけた、率直な思いからだろう。「雲の上にいるみたいです」。ディープスカイで大仕事を成し遂げた昆師は笑顔を見せた。

 わずか中2週という間隔だったが、厳しい鍛錬を緩めることはなかった。前走後の始動も早く、栗東坂路で鋭い動きを重ねてきた。馬体重は6キロ増の514キロ。「(体を見て)大丈夫だと思いました。プラス体重で出走できると思っていましたし、成長しています」。毎日杯を完勝しながら、皐月賞をパス。クラシック1冠目に固執しなかったことが、変則2冠の達成へとつながった。

 「皐月賞で無駄なエネルギーを使うより、こういうローテーションで良かったと思います。とにかく順調にこられましたから」。鍛えて成長し、相手が強くなれば、さらに一段上の強さを見せる。天井知らずの栗毛馬の成長力に、気鋭のトレーナーも舌を巻いた。

 期待馬がそろった厩舎の3歳勢にあって、スカイの初勝利は今年1月の京都、デビュー6戦目。決して派手な存在ではなかった。だが、戦線を離脱するチームメートにはない潜在能力があった。

 「勝つまでに6戦も要したのは、芯が入っていなかったんですね。(4走前に)東京の500万の平場戦で2着に入った時に、“この馬はすごいな”と思ったんです」。最後方からメンバー最速の上がり3F33秒4の末脚を駆使。スローペースで2着に食い込んだ中身を、指揮官は見逃さなかった。直後のアーリントンC3着で、さらに目覚めた好素材。それまでの遠回りを吹き飛ばすかのように、2冠達成へ強烈な速度で走り抜けた。

 開業9年目で手に入れた、頂点の座。指揮官はスカイの今後について話を向けた。「宝塚記念は使わず、夏は休ませる予定です。秋については決まっていませんが、もうひと皮むければ古馬との戦いも可能でしょう」。そして「来年は海外挑戦を考えています」と明言した。強烈な成長力に加え、千六百メートル、二千四百メートルで見せた強さ。日本にまた、世界を狙える大器が誕生した。

【深見敏男オーナー  馬主歴5年で頂点】 

 馬主歴5年でダービー初挑戦。しかも現在、中央競馬で保有するのはディープスカイ1頭。素晴らしい幸運の持ち主、深見敏男オーナー(52)は日焼けした顔を紅潮させて喜びを表した。「みなさんの運をいただきました。お父さんに最高のプレゼントができましたよ」。父の富朗さん(71)は現役の馬主。「このスカイも父が選んでくれたんです」と、最高の“親孝行”に笑顔を見せていた。


四位騎手とディープスカイ

ファンの声援に手を上げて応えるディープスカイ騎乗の四位

    

四位 史上2人目 ウオッカに続きダービー連覇

「今年も競馬の神様が僕に降りてくれた」


【1番人気の期待に応えた】 

 昨年よりもゆっくりと右手が上がった。スタンドへ向けて、ディープスカイを世代の頂点へ導いた四位の腕は真っすぐ、水平に。その指は2冠制覇、そして勝利の“V”を表現していた。98―99年の武豊に続き、史上2人目となるダービー連覇の偉業。64年ぶりの牝馬Vを成し遂げた昨年のウオッカのときよりも、余韻に浸る余裕があった。「今年も、競馬の神様が僕のところに降りてくれた。最高に幸せです」。満面の笑みで、四位はファンの声援に応えた。

 最後の直線、残り四百メートル手前で大外に持ち出すと満を持してゴーサインを出した。こん身の左ステッキ連打に、スカイは大きなストライドでグングン加速した。インが有利な今の馬場コンディションでただ1頭、大外から猛然と襲いかかる。粘り込みを図るスマイルジャックをゴール寸前で捕らえた脚は、メンバー最速の上がり3F34秒2。鬼脚で混戦を断った。

 「内外が離れていたのでどうかと思ったが“かわせるかな”と。内にいたのがスマイルジャックだとは思わなかったけどね(笑い)」。手応えはあったが、ダービーという一戦が放つ独特の雰囲気が不安をかき立てた。気を緩めることなく、無心で追った。不安視されていた距離の壁を乗り越えた先には、栄光のゴールが待っていた。

 @枠1番からのスタート。前日の雨はカラッと晴れ上がり、9Rから良馬場まで回復した。だが「3〜4コーナーの内めは荒れていたから。コース取りを考えていた」。道中は武豊ブラックシェルをマークする形で追走。経済コースを通り、じっくり脚をためた。勝負を決めたのは4角。「直線は内を突きたかったが、詰まりそうだった。手応えに余裕もあったし、外に出そうと思った」。末脚に絶対の自信があるからこそ、ロスを覚悟で大外に進路を取った。ダービージョッキーの的確な判断がさえ渡った。

 当初、四位は今年のダービー騎乗馬がいなかった。そんな矢先にスカイと出会い、NHKマイルCを制覇。この勝利で鞍上はダービー連覇へ、またスカイには変則2冠への道が開けた。「チャンスをいただいて、まして勝つことができた。1番人気でプレッシャーもあった。期待に応えられて良かった」。次は3つ目のビッグタイトル、そして世界へ―。競馬界に身を置く誰もが勝利を夢見るレースで連覇を飾った名手が、新たな“ディープ伝説”を築き上げていく。

【夫の勇姿に美帆子夫人「本当にうれしい」】

 ジョッキーとして最高の栄誉を昨年に続いて手に入れた四位。名手を陰で支えた美帆子夫人は、娘の七海ちゃん(8つ)と一緒に、今年も東京競馬場のスタンドで声をからした。単勝1番人気の重圧をはねのけた夫の勇姿に「昨年勝ったことで、今年はもっと勝ちたいように私には見えたので…。本当にうれしいとしか言いようがありません」と感慨に浸っていた。



夢一瞬…ジャック 銀  直線抜け出すもG前で屈す

 小牧完ぺき騎乗 騎手も調教師も、そしてファンも。誰もが一瞬は勝利を確信したはずだ。直線半ばで完全に抜け出したのは、12番人気の伏兵スマイルジャック。「ここまできたら勝ちたかった。自分のペースで勝ちパターンだったけど…」。悔しさと満足感の入り交じった小牧の表情が、すべてを物語っていた。

 「乗るのは4回目だけど、道中でハミが外れたのは初めて」。折り合いを欠いた皐月賞がウソのように、3番手できっちりと折り合った。残り二百メートルでは後続との差を2馬身近くに広げて、夢の頂点へと突き進む。「夢というか、勝つと思った」。勝ち馬の強烈な末脚に屈し、絞り出した言葉に無念の思いが詰まる。

 陣営は悔し泣き 完ぺきな騎乗に対し、小桧山師は「120点だった」と褒めたたえた。大一番へ向けて、松田博師にダービー用の調教のノウハウを教えてもらったという。「その通りにスタッフがやってくれた。ある程度の馬がくれば、ウチは仕上げられるスタッフなんだ。それを証明できた」と胸を張った。担当の芝崎助手は悔しさをこらえきれず涙を流した。決して良血馬ばかりとはいえない馬を抱える厩舎が見せた、意地の激走でもあった。

 今後はリフレッシュ放牧に出して、目標は秋の菊花賞(10月26日・京都)だ。「泣いていた芝崎もこれからの人生に生かせるなら」。厩舎一丸となって、3冠ラストでのクラシック獲りに突き進む。

豊シェル不発 銅  狭まれてリズム崩す

 1コーナーがすべてだった。ブラックシェルはスムーズさを欠いて、3着に敗れた。「まともに挟まったからね。あれで終わったよ」と武豊。自身20回目となる府中の大舞台、5度目の栄冠を逃した鞍上はストレートに悔しさをにじませる。

 ポジションを取りに行こうとした矢先だ。モンテクリスエスが外から切れ込んで、ラチと馬に挟まれる格好に(福永は過怠金1万円)。「力んで走ってしまい、見た目以上に消耗していた」。崩れてしまったリズムを取り戻せず、直線でも本来の爆発力が影を潜めた。

 管理馬同士の接触に、松田国師も「競馬だから仕方がない」と複雑な表情を浮かべる。04年キングカメハメハ以来、3度目のダービー制覇の夢もかなわなかった。「うまく形ができた時だったからね」と唇をかんだ。

 それでも、NHKマイルC2着、ダービー3着と世代トップの力は示した。今後について、指揮官は「レースが終わったばかりだからね」と路線の明言は避けたが、「秋が楽しみになった」と視線を前に向けた。春はつかめなかったG1のタイトル。秋は譲れない。

チャールズ  完敗4着

 マイネル軍団の悲願はまたしても達成されなかった。しかし、完敗に終わった結果を受け入れていたからだろう。4着に敗れたマイネルチャールズの松岡は淡々と振り返った。「レース運びは理想通り。勝った馬は強い」。道中は中団を追走。先に抜け出したスマイルジャックを追うように直線では懸命に脚を伸ばした。決して自身の勢いが止まっていたわけではない。それでも4着がやっとだった。

 「直線の坂を上がって来た時は勝ったと思ったけどな。最後は瞬発力の差だろう。しゃーないべよ」。稲葉師は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。松岡も「東京の長い直線を乗り切るには、もう少し馬体がパワーアップしてこないと」と課題を挙げた。来週中にも北海道のビッグレッドファームに放牧へ。秋の戦いに備えて、夏場にしっかり充電を図る。

ディープスカイ 牡3歳。父アグネスタキオン、母アビ(母の父チーフズクラウン)。馬主・深見敏男氏。生産者・北海道浦河 笠松牧場。戦績・11戦4勝。重賞・08年毎日杯、NHKマイルCに続き3勝目。総収得賞金・351、401、000円。昆貢調教師は初勝利、四位洋文騎手は07年ウオッカに続き2勝目。

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