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ジャパンカップ

ディープ飛んだ!凱旋門の雪辱
取り戻した最強馬の輝き

2006/11/26・東京競馬場

▼ 第26回ジャパンカップ
1着 
ディープインパクト
武豊
2.25.1
2着
ドリームパスポート
岩田
3着
ウィジャボード
デットーリ
1/2
   
 飛んだ、強いディープが帰ってきた。ディープインパクト(牡4歳、栗東・池江郎)が、大外一気で6度目のG1制覇を果たした。禁止薬物の使用で、凱旋門賞失格。ショックを振り払い、これで最強馬の名は不動のものとなった。さあ、最多タイのG1レース7勝目をかけて、ラストランの有馬記念(12月24日・中山)へ―。記録だけではない。記憶に残る贈り物をファンに届ける。
ゴールを目指すディープインパクト(中央)=東京競馬場

 【6冠達成!日本中が感動】

 誰にも何も言わせない。ディープインパクトが、モヤモヤを振り払うように“正真正銘の史上最強馬”の称号が待つゴールを先頭で駆け抜けた。

 「飛びましたね」―。

 汚名返上を誓って臨んだ戦い。「負けられないと思っていた」と武豊は振り返った。日本中の競馬ファンも心待ちにしていた。単勝支持率はJC史上最高の61・2%に達した。「大きな声援がディープの後押しになったと思う」。やむことのない歓声に酔いしれた。

ディープインパクトの鞍上で声援に応える武豊=東京競馬場

 レース前、ユタカは確信した。ゲートの集合合図がかかったとき、ダービーと同じ場所で物見をし、ジャンプした。「あのときと同じ。いい予感。勝てると思った」。雰囲気もいつもどおり。自信をもって挑んだ。

 お決まりの出遅れから、最後方のディープポジションを追走した。道中はリラックスさせることに専念。残り八百メートルが合図だった。最強仕様の搭載エンジンが点火した。直線はダービーと同じ大外を疾走し、あのときのように最速の上がりをマーク。3F33秒5の末脚を駆使して飛んだ。

 日本中がため息をついた凱旋門賞“3着”。突然の引退発表、そして禁止薬物による凱旋門賞失格。あらゆる騒動がディープを襲った。「本来の走りができてよかった。うれしい。いろいろあったけど、ディープは変わりなくディープ。池江郎先生の顔を見ると胸が熱くなって…。あとで先生にキスしたいぐらい」。悔しい思いでこの2カ月間を乗り越えたスタッフの姿に、高ぶる気持ちを抑えきれない。

 ユタカは史上最強馬のことをこう話す。「ハラハラさせる馬。うまく乗らせてくれない」と。相棒との闘いに勝たなければ、栄光はない。「きょうは勝ったね。オレがディープに勝てば、レースに勝つわ」。パートナーを制御し、勝利に導けた満足感があふれる。

 さあ、ラストランの有馬記念。勝てば史上最多タイのG1レース7勝目だ。皇帝ルドルフとオペラオーの2頭だけがその頂に座る大記録に挑む。

 「もっと乗りたい。そりゃね。でも決まっていること。最後にもうひとつね。ラストのレースにすべてをかけて乗りたい。彼の競走生涯最高のレースをしたいと思う」。

 敵はいない。最高のパフォーマンスで締めくくるだけだ。

 【池江郎師「体内は涙でいっぱい」】

 すべてを英雄が吹き飛ばしてくれた。苦しみ抜いたからこそ喜びは大きい。激流に巻き込まれた末の激勝に、ディープインパクトを管理する池江泰郎調教師(65)=栗東=は、あふれる感情を必死に抑えながら愛馬への感謝の気持ちを何度も口にした。さまざまな意味でこの日の勝利の持つ意味は大きかった。

ジャパンカップを制し、優勝カップを高々と掲げる池江郎調教師=東京競馬場

 日はまた昇った。苦しみが大きければ大きいほど、乗り越えた時の喜びは何倍にも膨らむ。引き揚げてくる“孝行息子”を待つ間、池江郎師は目を真っ赤にしながら、こみ上げる熱い思いを必死に抑えていた。

 「これまでG1は何度か勝たせてもらいました。でも今日のようなゴールの瞬間は味わったことがない。体中が熱くなって“体内は”涙でいっぱいに満たされました」。金子真人オーナー夫妻と抱き合い、関係者からの握手攻めにあいながら何度も何度もうなずいた。

 まさに激動の日々だった。凱旋門賞敗戦のショックが癒える間もなく、年内引退が決定。さらに“薬物検出”の衝撃が襲う。それを機に、どんな時でもオープンに接してきた池江郎きゅう舎とマスコミの距離は広がっていった。「いろんなことがありすぎて…1日1日が苦しくて、この2カ月は1年のように長く感じた」。どん底に打ちひしがれた師を励ましたのは、騒動の渦中においても何ひとつ変わらない姿を見せ続けたディープだった。「“ガッカリばかりしていたらダメだ”と、いつも勇気をもらいました。人生山あり谷あり。倍になって喜びが帰ってくると信じていたが、それを今日ディープが証明してくれた。感謝、感謝の気持ちでいっぱいです」。何度も何度も愛馬に対する謝辞がこぼれた。

 関係者だけではない。日本の競馬界がディープに救われた。仏滞在中に咳(せき)をするなど体調を崩しかけたディープに“薬”が使われ、不手際からそれがレース後に検出された。“薬物”という響きは重い。誤解からライトファンの競馬離れが心配された。もし今日ディープが負けていたら…過去の栄光に疑惑の目が向けられ、日本の競馬は死んでいただろう。

 池江郎師も「これで自分がやってしまったことが終わりではない。これからも再発防止のために勉強をしていきたいと思う」と自戒の言葉を忘れなかった。この日、人前で涙をこぼさなかったのは師のなかでのけじめだったのかもしれない。

 英雄を称える東京競馬場は過去にないほどの素晴らしい雰囲気に包まれた。この日の勝利は、とてつもなく意味のある大きなものとなった。

 【惨敗ハーツ 有馬でリベンジ】

見せ場なく10着に敗れたハーツクライ(右)=東京競馬場

 まさかの失速だ。道中は好位の3番手を追走していたハーツクライだが、4角手前でルメールの手綱が激しく動く。それでもまったく反応を見せず、ズルズル後退。鞍上の叱咤(しった)激励もむなしく、ブービーの10着に敗れた。

 引き揚げてきたルメールは「ノドは鳴っていたが、それはいつものこと。4コーナーから気配がおかしかった。何で急に止まったか分からない」と腑(ふ)に落ちない様子。この1年、ドバイ、英国を渡り歩き、一緒に戦ってきたパートナーのこの日の走りに、ただ首を傾けるだけだった。

 あまりのショックで落ち込む橋口師は「あんなぶざまな競馬をするような馬ではない。ハーツクライではない別の馬だった。このままではハーツのイメージが壊れてしまう」と引退をほのめかすようなコメントも出たが、オーナーである社台ファーム代表の吉田照哉氏は現役続行を宣言。「間隔があきすぎていたからね。もしかしたらノドの症状が進行しているのかもしれない。まったく競馬になっていないし、有馬記念(12月24日・中山)へ使う。そこで好走すれば、来年もドバイに行くかも」と復活を願っていた。

 ノド鳴りといえば、手術で病を克服したダイワメジャーの例がある。だが吉田照哉氏は「手術は考えられない。メジャーは3歳の時だったけど、これだけの成績を残している馬だからね。あえて危険をおかす必要はない」と完全否定。ディフェンディングチャンピオンとして臨む有馬記念は“選手生命”をかけた戦いになる。

 【2着パスポート届かず】

 夢へのパスポートに手は届いた。「いや、勝てるって思ったら…。興奮して焦って手綱を落としちゃった」数々のGIで好勝負を演じてきた岩田ですら、気持ちを抑え切れなかった。だが2、3、2着に惜敗した3冠ロード同様、勲章をつかむことはできなかった。ドリームパスポートはまたもや2着に敗れた。

 これまでとは違い、道中は中団を追走。決して作戦ではなく不本意だった。「ハミが掛かったり抜けたりでスムーズに折り合いがつかなかった」それでも直線は最内から力強い伸び脚。逃げるコスモバルクをとらえて抜け出したが、残り百メートルで主役にかわされた。「でも3歳なのにものすごい瞬発力。ただスムーズならもっとはじけたと思う」3歳馬では最先着したものの、表情は複雑だ。

 「いつも頑張って偉い。体も大きくなってるし無事なら来年はもっと強くなる」悔しさをにじませる鞍上とは対照的に、松田博師は常に全力の愛馬を素直に称えた。「何もなければ当然考える」と有馬記念(12月24日・中山)へ出走する可能性は高い。悲願のG1奪取、そして再び怪物退治に挑むチャンスは残されている。

 【英国女王ウィジャ 3着完敗】

 結果は3着。だが内容は完敗。だからこそ「ファンタスティック・ホース!」とデットーリは素直に勝ち馬を称えた。英国女王ウィジャボードは3着。昨年5着のリベンジはならなかった。

 後方2番手で展開、そして最後方にはディープ。四角でまくり気味に進出したライバルが外から馬体を合わせる。「外々を回っておけばよかった」一瞬閉じ込められる形になり、直線入り口ではやや前が詰まるシーンも見られたが、残り四百メートルからはムチを連打し追い込み態勢に入った。「東京は直線が長く坂もある。牝馬にはタフだね。最後の百メートルは疲れて伸びを欠いた」能力を出し切っての敗戦に、鞍上は時折笑みすら浮かべた。

 誰よりも世界を知る男は言葉に力を込めてこう話した。「でも世界最強牝馬の評価は変わらない。勝った馬が世界最強牡馬ということだろう」。

 
ディープインパクト…牡4歳。父サンデーサイレンス、母ウインドインハーヘア(母の父アルザオ)。馬主・金子真人ホールディングス(株)。生産者・北海道安平(元・早来) ノーザンファーム。戦績・13戦11勝(うち海外1戦0勝)。重賞・9勝目(05年ダービー、皐月賞、菊花賞、弥生賞、神戸新聞杯、06年ジャパンC、天皇賞・春、宝塚記念、阪神大賞典)。総収得賞金1、271、527、000円。武豊騎手は99年スペシャルウィークに続いて2勝目。池江泰郎調教師は初勝利。

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