【ボート】本物の勝利だった…服部幸男7年2カ月ぶりのG1優勝に思う

 8日に児島64周年記念を制した服部幸男
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 「ボートレース記者コラム・仕事 賭け事 独り言」

 8日に幕を閉じた「G1・児島キングカップ」は、服部幸男(45)=静岡・64期・A1=が、7年2カ月ぶり、21回目のG1優勝。舞台袖で一部始終を見ていた児島常駐記者の私にとって、それは時空を越えた本物の勝利だった。

 4000番台のスピードターンが席巻する現ボート界。かつて21歳9カ月でSG優勝を成し遂げた服部は、伝説の人となりつつあった。今なお王者として最高峰の舞台・グランプリにとどまり続ける同期の松井繁とは異なり、40歳代以降の服部はA1勝率ギリギリに落ち込むことすらあった。15年は一般戦の優勝もゼロ。そんな中、ファンが選出する「SG・オールスター」に11年連続で出場。13年から16年まで4年連続で優勝戦へ勝ち上がり、ファンの思いに応え続けてきた。

 16年の児島キングカップは、番組マンのこの演出から始まった。「今年は児島の64周年。初日の1R、1号艇は64期でいく」と。事前に初日12Rのキングドリームは松井繁に決定していた。必然的にもう一人の雄、服部がトップバッターだ。児島のエンジンは使用11カ月を経過。機力相場は固まり、大きく動くことはない。予選一度きりの1号艇で負けると後がない。実績機を引いたとか、地元でS勘をつかんでいる選手ならいざ知らず、服部にとって初日1Rの1号艇は楽な戦いではなかったはずだ。

 前検日に「パッとしない。以上!!」と短いコメントを残してペラ調整に没頭していた服部は、一走目に逃げて白星発進。その後は着実にポイントを重ね、予選最後の6号艇時は2コースまくりで1着。予選2位通過を決め、準優は11Rで逃げ切った。あとは12Rの結果待ち。服部の取材を終えた取材陣が立ち去った後、ガランとしたピットに服部と2人だけになる瞬間があった。「前検日のパッとしないから、どこで変わったんでしょう?このエンジンの力を引き出せた人は服部さん以外にいません。11カ月間、優出が一度もなかったんですから。前検日のペラ調整ですか」。私の言葉に服部は「う~ん、そうだね」としばらく思いを巡らせていた。そして、「今回がこのエンジンの初優出?それ、いい情報!!」とニッコリ。その姿は自信に満ちていた。

 予選1位の毒島誠が準優12Rで5着に敗れ、優勝戦は服部が1号艇。握って回れば差される。落とし過ぎればまくられる。満潮の水面で服部は冷静に逃げ切り、41周年以来の児島キングカップを勝ち取った。7年2カ月ぶりのG1制覇を喜ぶよりも、服部はこの言葉に力を込めた。「実績のないエンジンを仕上げることができた。何よりもこれが大きな収穫」。たまたまいいエンジンを引いたからでもなく、転がり込んできた1号艇だったからでもない。服部の勝利は本物だった。

 45歳になった服部の優勝記事を書き終え、ふと思いついて自宅の書棚に眠るスクラップブックを取り出した。93年11月18日の児島41周年。野中和夫、中道善博、そして黒明良光。名だたる強豪を5コース差しで破った22歳の服部がそこにいた。服部の新時代を感じさせた児島64周年。この後に続くグランプリシリーズ(20~25日、住之江)、来年児島のボートレースクラシック(3月15~20日)で新たな伝説が生まれる予感がした。(児島ボート担当・野白由貴子)

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