日本国内のみならず、世界中に絶賛された時代劇映画「たそがれ清兵衛」。山田洋次監督が「〜清兵衛」と同じ藤沢周平の世界に挑んだのが今作品だ。試写会の会場は、中高年サラリーマンが大半。洋物の大作などとは大きく趣を異にしていた。
時は幕末、東北地方のとある藩に仕える下級藩士と、その周囲に起こる日常と非日常の世界。主人公たちにとってみれば小さな出来事ではないが、見ている側には、時間の流れがどこかゆったりとしているように映る。それは、昨今のドラマのような、先へ先へと急がされる感覚がないからだろうか。これが山田洋次の世界であり、藤沢周平の世界なのであろう。
主人公を演じる永瀬正敏は、お世辞にもカッコイイとはいえない、冴えない男を嫌味にならずに演じている。これまでのイメージなら、その親友で妹の夫を演じる吉岡秀隆の方が要領の悪い男に似合いそうだが、そうしなかったことがかえって新鮮。ヒロインは松たか子で、存在感もあって十分うまいのだが、何となく“大人”に見えすぎてしまう。鮮烈なのが高島礼子だ。夫役の小澤征悦と見比べると、どうしてもかなり姉さん女房に見えてしまうが、少ない出番で与えられたキャラクターを存分に表現してみせている。また、緒形拳の脂ぎったオヤジぶりは見逃せない。
記者は「〜清兵衛」もその他の山田作品も、これまで劇場でじっくり見る機会がなかった。藤沢作品もまた、テレビドラマや宝塚歌劇で見たことはあったが、原作自体を味わって読んだことがない。それでもこの作品は、十分に心の琴線に触れてきた。日本人だからか、それともそれ相応の年になったということか…。
だが、この作品が描くのは、けっして下級武士=サラリーマンの悲哀ばかりではない。人間なら誰しもが持つ、心の奥にしまった感情。これを揺り動かす力があるのだと思う。そしてそれが藤沢周平の世界であり、山田洋次の世界なのだ。だからこそ「〜清兵衛」は、日本人以外にも愛された。若干、二番煎じの思いはぬぐえないが、今作品にもそれに負けないだけの力があると感じた。(香) |