D・マシューズ「ジャズと相撲似てる」

 セカンドアルバム「枯葉」(1985年)がジャズでは異例の20万枚超を売り上げるなど、日本で人気のマンハッタン・ジャズ・クインテット(MJQ)。リーダーのデビッド・マシューズ(73)は今年でプロ生活50周年になる。昨年30周年だったMJQの新作「スティル・クレイジー」を50周年記念作品として5月末にリリースしたマシューズが、デイリースポーツに50周年や日本との関係を語った。

 -今年でプロ音楽家生活50周年、MJQも昨年で結成30周年を迎えました。

 「衝撃的な数字で驚きました。毎日毎日音楽を作ってレコーディングして、あっという間に年月が過ぎて。本当に楽しかったし、ここで辞める気はさらさらない。あくまで通過点として捉えています。次の50年をやってもいいくらい」

 -そんなにも長く続けられる、音楽の面白さとは何でしょう。

 「私はとても幸運だったと思います。妹が妻に初めて会った時に『子供の頃のデビッドは?』と聞かれて『音楽のことしか考えていないような子』と答えました。その調子で音楽だけをやってきた人生です。生涯、音楽家であり、絶対に辞めることはないし、辞めようと思っても辞めることはできません」

 (続けて)

 「高いレベルのアーティストに共通するのは、情熱を備えているからそのレベルを保てるということ。以前、年長のアーティスト-83~84歳でしたが-がニューヨーク・スタイルの最高のショーを見せ終わって、楽屋で会ったら『ああ、疲れたな』と言っていましたが、その人がショーを辞めることはありません。そういうアーティストの性分があると思います。私が特別だとは思いませんが、自分がよほど幸運なのは理解しています」

 -新しいアイデアはどのように浮かぶのでしょうか。

 「難しい質問です。答えるとしたら、私が非常に幅広い音楽的経験を持っているということです-あらゆるジャンルのあらゆる経験を。ジェームズ・ブラウン、ファンクを生み出した張本人から直接ファンクをたたき込まれ、クラシックの音楽院で学位を取るなど、あらゆる音楽に関わってきました。それらを何とか脳内でミックスさせて、次のプロジェクトをやろうとした時、何かをそこから引っ張り出して、まとめていく。自分の味付けをしている感覚があります。作曲家、編曲家にはテイスト、センスが大事。常に新しいもの、ハッピーなもの、観客が聴いて良かったと思うものを作り出しているということ」

 -「スティル・クレイジー」のコンセプトとは。

 「仕事の方法の話になりますが、このメロディーにアレンジしようと思った時、過去はいったん置いて、全く新しいアレンジをやろうというのがいつもの私の考え方です。鳴ったことのない新しい色をこの曲に与えようというスタンスです。もう一つの手法として、自分で何回も何回も聴きたいアレンジを念頭に置いています。1~2回聴いてバイバイという出来上がりなら、失敗と位置づけています。繰り返して楽しみたい、このアルバムの曲もそうだと思います」

 -今回、あなたがアレンジャーとして参加したビリー・ジョエルの「あの娘にアタック」やポール・サイモンの「時の流れに」をカバーしていますね。

 「プロデビューから50周年のお祝いという機会で、自分の歴史に残る曲を入れたかったのです。昔のまま入れるのではなく、十分新鮮に変身させて、こんにちの音に合う曲として。振り返った記念として入れました」

 -「グランパ」は、1970~74年にアレンジャー、バンドリーダーとして参加していたジェームス・ブラウン(JB)にささげたナンバーだとか。

 「私の音楽家としての第一歩の背中を押してくれた、JBへのトリビュートです」

 -JBはどんな方でしたか。

 「彼は自分で自分のことを『俺は10%がミュージシャン、90%がビジネスマンでできている』と言っていました。間違いなく黒人音楽の偉大なイノベーターで、キューバ音楽のリズムをたくさん取り入れていた人です。それがファンクの基になった。限りない影響を黒人音楽に与えました。ビジネスマンとして素晴らしかったのは、ラジオからコンサートをプロモートするやり方を発見したこと。アメリカ中の黒人ラジオ局にコネクションを作り、毎週新曲を出してそれが死ぬほどかかる。超ヘビーローテーションです。コンサートは常に満員、興奮がどんどん積み重なっていくんです。ラジオ局とコンサートツアーをコネクトしたプロモートは、JBの編み出した手法です」

 -MJQについて。84年の結成以来、日本でとても愛されている理由とは。

 「一つの理由として、日本人はとてもメロディーを愛している国民というのがあるのではないでしょうか。私はメロディーに力のある曲を選ぶ傾向があります。メロディーは一番大事な部分で、リズムを変えたとしても、流行によって曲のスタイルが変わったとしても、メロディーはずっと生き続けます。私とメロディーの関係性が日本のリスナーに直接響いたのでしょう」

 (続けて)

 「JBに『レコードでは最初にリスナーの心をつかめ!10秒、15秒つまらない音楽を流していたら消されちゃうかもしれない』とたたき込まれました。特別に注意するのがイントロの部分。イントロで引っ張り込んで離さないことを心がけています」

 (続けて)

 「ビル・エヴァンズのライナーノートで読んだんですが、特別な和紙の種類で、筆を止めたら破れてしまうものがあるそうです。ジャズにとても似ていると思いました。ジャズも演奏を止めた時が終わった時。演奏しているうちは自由、何をやってもかまわない、止めたらおしまいというところで、通じるものがあると思います」

 (続けて)

 「個人的にはジャズと相撲がとても似ていると思います。相撲は若いうちからその道に入り、ひたすら食べて練習を繰り返して技を磨き、勝負の時は一瞬で終わっていく。ジャズも若い頃からジャズマンとしての生活に入って練習して、ジャズクラブに入ってステージに上がったその時も、ソロをやるのはワンチャンス。その潔さは相撲道に重なると感じます」

 -11日の東京・ルネこだいらからMJQの30周年ツアーが始まります。

 「新作からも演奏しますし、この30年間のオールドナンバーも演奏します。MJQはとてもエキサイティングなバンドなので、これまでの人もこれからの人も、間違いなく楽しんでもらえるライブになりますよ」

 【デビッド・マシューズ】(David Matthews)1942年3月4日生まれ、米ケンタッキー州出身。ピアニスト、編曲家、作曲家、プロデューサー。ジャズ、ポップス、映画音楽など幅広く活躍。ビリー・ジョエル最大のヒットアルバム「イノセント・マン」、グラミー賞最優秀アルバム賞を受賞したポール・サイモン「時の流れに」、フランク・シナトラの最後のオリジナルソロアルバム「LAイズ・マイ・レディ」といった歴史的名盤にアレンジャーとして参加。70~74年、ジェームズ・ブラウンのアレンジャー、バンドリーダー。75~78年、ジャズの名門レーベルCTIでニーナ・シモン、アート・ファーマー、ジョージ・ベンソン、ロン・カーター、グラント・グリーンらのプロデュース、作曲、編曲を担当。84年、MJQ結成。NHK「英語でしゃべらナイト」(2003~09年)に準レギュラー出演。

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