井村雅代シンクロナイズドスイミングヘッドコーチインタビュー(1)根性は必須

プールサイドで選手にアドバイスする井村雅代氏(左)=撮影・山口登
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 2020年東京五輪へ向けて各界のキーマンにその信条や理念、東京五輪へ向けての提言などを聞く。初回は昨年のリオデジャネイロ五輪でシンクロナイズドスイミング日本代表を2種目で銅メダルに導いた井村雅代ヘッドコーチ(66)。14年に10年ぶりに日本の指導に復帰し、シンクロ日本を立て直した名将は、持ち前の歯に衣(きぬ)着せぬ物言いで「根性論だけでは勝てないが、根性は必須」と指導理念を語った。 -04年アテネ五輪後に日本代表ヘッドコーチを退き、08年北京五輪と12年ロンドン五輪は中国を率いてメダルを獲得。10年ぶりに日本に帰った時には、選手が以前とは変わっていたというが。

 「全然違う。もうアスリートじゃなかった。ダラダラしていて、練習中に競ってくれない。(競泳練習でも選手が並んで泳いで)1センチと差があかない。自分の持っている力を出さない。立花美哉らがいた04年までは、プールの中は競争の場でした。それがみんな仲良くなってしまった。日本の教育がそうさせたんでしょう」

 -そういう選手をどうやって厳しい練習についてこさせたのか。

 「(ついていって)よかったと思わせてやろうと思います(笑)。選手をメダルのところへ連れて行こう。それしかなかった。本人の意思なんて尊重しない。メダルを獲りたいのに、そのために今日をどう過ごしたらいいか知らない子たちだったから、反発する方法すら知らない。『代表チームで私は必要とされてません』と離脱した子がいたけど、必要とされてないんじゃなくて、必要とされる人間になるのが先だと言いましたよ」

 -根性論、スパルタは非科学的だと捉えられるが。

 「根性論?根性論だけでは勝てない。根性論だけで勝てたら世話はないわ(笑)。でも、根性がないと勝てない。根性は必須条件でしょ?根性論だけで勝てるなら、滝に打たれていればええんやから」

 -指導者が批判されることも多い。

 「今、国立スポーツ科学センターのエレベーターに『セクハラ、パワハラ、過度の練習』と並記して、問題を抱えている選手のための電話番号を書いたポスターが貼ってある。セクハラ、パワハラはわかるけど、過度の練習が一緒に書いてあるのはおかしい」

 -選手の限界を伸ばすために?

 「(個々の能力の)過度を上げていくのが練習やのに。初めてポスターが貼られた時、たまたま選手たちと7階の食堂までエレベーターで上っていった。『過度の練習って、私のことやんか』って言ったら、選手たちはバツ悪そうでシーンって(苦笑)。でも、過度を下げたらそこからその子の過度は上がらない。選手には『力は使ったら増える。使わなかったら、力は温存されるんじゃなくて減る』と言うんです。楽して勝つ方法なんて知らんと言います」

 -選手の心身に過度な負担になる危険はないのか。

 「指導者なら、その子がこれ以上練習したら壊れるとわかります。壊れると思ったら、そこは我慢して体をつくる。今は肩にきているとか、すべてわかる。わからない指導者が育てるから壊れる。その時が来るまで、体づくりを優先するのが指導者です」

 -基本的な考え方はどこで生まれたのか。

 「(自身の子供の頃のシンクロは)マイナー競技でした。でも、朝から晩までプールに入っていて、それが当たり前やと思ってた。今よりスローテンポだったけど、五輪種目になってよりスポーツ的になった。五輪を見て皆が何に感動するかって言うと、人間の限界を超えちゃうから。人間のすごさを見られるからコマーシャルをしなくても有名人じゃなくても感動する。人間のすごさを見せつけられる。アスリートが自分の力を出して競い合うところにみんな感動する。ショーと違って(演出は)何もいらないわけです」

 ◇プロフィル◇井村 雅代(いむら・まさよ)1950年8月16日生まれ、大阪府出身。小学4年で堺市の浜寺水練学校に入学し、中学からシンクロを始める。生野高-天理大。中学の保健体育教師を経て、78年から日本代表のコーチとして6大会連続のメダル獲得に尽力。04年に退任し、06年に中国代表のヘッドコーチに就任。08年の北京、12年ロンドン五輪でのメダル獲得に貢献した。14年に日本代表コーチに復帰し、昨年のリオ五輪で2大会ぶりのメダルをもたらした。

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