金藤 けが、引退危機乗り越え覚醒

 リオデジャネイロ五輪競泳日本代表の主将に就任した“競泳界の澤”が、その背中でトビウオジャパンを引っ張る-。元なでしこジャパンの澤穂希さん似で、女子200メートル平泳ぎ代表の金藤理絵(27)=Jaked=は、世界新記録と金メダルを狙う。東海大時代から指導を受ける加藤健志コーチ(50)と組んで10年目。けがや引退の危機を乗り越え、リオでは史上初の2分18秒台突破で恩返しを果たす。

 遅咲きの27歳が2016年に覚醒した。何度も引退の危機を乗り越えた金藤は、4月の日本選手権で2分19秒65の日本新記録を樹立。世界歴代5人目となる19秒台を突破し、金メダルの有力候補にまで躍り出た。

 ここまで10年の歳月を費やした。東海大入学を控えた07年2月。同大学の加藤コーチは、合宿で初対面した18歳の泳ぎに衝撃を受けた。「お前は19、18秒台を出せる!」。目を見張ったのは天性の筋持久力。最後まで同じ速いテンポで泳ぎ切る才能にほれ込んだ。

 その期待通りに才能を開花させ、08年北京五輪で7位、09年には2分20秒72の日本新記録を樹立した。

 しかし、世界記録への青写真は10年春に崩れる。椎間板ヘルニアの発症。精神的にも落ち込んで食事量も減り、全盛期に70キロあった体重は1年で10キロ落ちた。12年ロンドン五輪は落選。その間にロンドン五輪銀メダルの鈴木聡美(ミキハウス)、15年世界選手権金メダルの渡部香生子(JSS立石)らが台頭。金藤は終わった-。そう思い込んでいたのは金藤自身だった。

 14年シーズン後、毎年のように「辞めたい」と口にする金藤に、指揮官がブチギレた。「世の中で期待される人間が何人いる?ましてや世界一だぞ!お前の意思なんかどうでもいいから泳げ!!」

 復活の引き金となったのは、ラストレースと位置づけて臨んだ昨年の世界選手権。6位と惨敗した金藤は、心の底から思った。「最後に周りの記憶に残るのが、こんな惨めなレースなのは嫌だ」

 完全にスイッチが入った。「リオ五輪を狙って頑張ります」と、初めて直訴。加藤コーチも本気になり、9年分の映像を総ざらい。そこで見つけた08年の捨て身の泳ぎを取り戻そうと、昨秋から地獄の練習がスタート。今年2月には7年ぶりに日本記録を更新し、4月には19秒台突破。ついに18秒台が見えた。

 二人三脚で世界記録を目指して10年目。「私ができる恩返しは結果を残すことしかない。世界記録も見えてきたので、メダルを取れるように頑張りたい」。最後の大舞台で、誰の記憶にも残る最高のレースを見せる。

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