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巨人1−3阪神

02年3月30日・東京ドーム
 
 入団発表から102日、星野仙一監督(55)は開幕戦で初勝利を挙げた。45年前、倉敷の街頭テレビで見たミスタータイガース・藤村富美男。「自分もああなりたい」という夢に向かって、阪神監督としての第一歩を踏み出した。プロ野球セ、パ両リーグ公式戦が30日、全国6カ所で8年ぶりに同時開幕。12年ぶり開幕戦勝利の阪神・星野監督はこぼれそうになる涙をこらえて、完投した井川を抱きしめた。
阪 神
1
巨 人
勝:井川1勝 S:−
本塁打:桧山1号、アリアス1号
星野監督は目をうるませながら井川を“ギュッ”と抱きしめた

 泣いた星野監督がほんの一瞬だけ、泣いた。井川を三塁ベンチ前で出迎えた時だ。1秒にも満たない至福の時。「将来の阪神を背負って立つ男」という期待に最高のピッチングで応えてくれた。“孝行息子”。

 その汗まみれの顔を見て、グッと来た。右手で握手して、抱きついて、井川の背中を6回、バンバン叩いて、くしゃくしゃの笑顔で、泣き顔をごまかした。「打倒!巨人」をライフワークとする男の顔。プレーボールがかかった瞬間、ナインのだれも知らない表情に変わった。就任からキャンプ、オープン戦を通じて見せたことのないストレート、真っ向勝負の喜怒哀楽。

井川が9奪三振1失点完投で開幕勝利

 ひー(桧山)がよう打った」と先制弾にはベンチを飛び出して、タッチの列に加わる。好プレーには賛辞、凡プレーにはゲキ…。星野監督のパフォーマンスに乗せられ、選手たちは知らず知らずのうちに、監督と、首脳陣と、ファンと一つになって無心で戦っていた。

 こういう野球を望んで、星野監督を招へいした。それを開幕戦で実現した。それでも星野監督は試合後、興奮で上ずった声を隠そうともしないでa告白bした。

 阪神としては12年ぶりの開幕白星。本当は「意識しとった。“(負けたのは)オレじゃない”と開き直っていただけなんだ」。

 監督歴12年目に突入したベテランであっても「最後まで緊張しとった。井川よりオレの方がプレッシャーを感じとったよ」。

 28日。上京直前に故藤村富美男氏、村山実氏というミスタータイガースの墓参を済ませた。小学校時代。星野少年が藤村氏のサヨナラアーチを街頭テレビで見て以来のトラキチが、最後の準備として自らにトラの血を注入した。

二回にガツン!桧山が上原から右越えに先制ソロを放つ

 そして臨んだ開幕。緊張しないはずがない。阪神の連敗記録を意識しないはずがない。しかし、その先には、これまでとひと味もふた味も違った感激が、星野監督を待っていた。

 ハートでつかんだ勝利。しかし頭は冴(さ)え渡っていた。9人で戦い終えた。ベストオーダーを組んだ手腕。

 三回には三塁走者藤本が赤星の空振りで飛び出す凡プレー。星野監督はイスを蹴り上げない。「何をやっとんだ!」の叱責も、鉄拳も飛ばさない。即座に「取り戻せ!!」と藤本に声を掛けた。

 キャンプからグラウンド、朝食、夕食、風呂…。あらゆるところで選手とコミュニケーションを図った。腹心・島のヘッドが証言する。「もう一人ひとりを完璧に把握してるよ」。だれをどう扱えば、最高の働きをするか。完全に見極めて収めた勝利。星野監督が示した猛虎再建への一歩は、だれが予想したよりも大股だった。(西下純)


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