台湾でWLが開催される理由…気候だけでなく政治的な背景も

 近年、台湾球界はオフシーズンの有効利用に積極的だ。今季も11月25日から12月22日までの約1カ月の間に開催されたアジア・ウインター・ベースボールは、2012年から一度中断を挟んだものの、今年で4回目を迎えた。毎回、参加チームに変化はあるが、台湾だけでなく日本、韓国、今年は欧州選抜、以前はドミニカの選抜チームも参加したことがある。国際色豊かなウインター・リーグ(以下、Wリーグ)だ。

 「Wリーグといえば、米国や中米が開催実績を持っています。規模は違ってもアジアでも出来ないか、というプランはNPBの関係者からも出ていたんです。それには冬でも比較的暖かい台湾は適任地。そこで構想が浮上したのは、もう10年以上も前のことです」(台湾プロ野球関係者)

 中米のWリーグとの違いといえば、プレーする選手層だろうか。彼の地はメジャーでプレーするベテラン選手までもが“スポット参戦”を含め多く参加する。故国に戻った際、日頃テレビでしか応援出来ないファンへの“恩返し”の意味もあるのだ。文字通り各国の冬の野球界のイベントとなっている。もちろん、若手のアピールする機会でもあり、メジャースカウトの調査対象ともなる。

 一方の台湾はあくまでも若手中心で、経験を積む場所という考えに重きを置いている。NPB関係者も「中米に派遣するチームもありますが、治安に不安がある国もある。その点、台湾なら治安も食事などの環境も問題ない。球団としても送り出しやすい」という考えだ。無論「チェン・ウェインなどが参加してくれたら文句ないんですけどね(苦笑)」という現地の報道関係者の声もあるが…。

 いずれにせよ、台湾球界がWリーグを開催する意味、意義は多岐にわたる。

 「まず何より、若手(プロの2軍)に、より実戦経験を積ませたいという考え。同時に、それは他国の選手との対戦経験を増やしたいという考えにもよるんです。台湾のプロでも2軍となると、国際大会の出場は限られます。そんな選手たちでも、Wリーグで他国が編入し、参加してくれれば対戦機会の増加となります」(台湾プロ野球関係者)

 それがひいては選手全体のレベルアップに繋がればという願望にもなる。同時に、台湾国内での野球の普及、浸透も。

 台湾が海外チームとの対戦を希望するのには、政治的に特殊な立場にあることも起因している。対中国との関係から、国連では国として承認されておらず、なかなか国際社会にアピールすることが難しい。五輪やWBCといった国際大会で「台湾」ではなく「チャイニーズタイペイ」と称するのも、そのひとつだ。言い換えれば「国際社会にアピールする方法のひとつ」として、スポーツである野球は、格好のコンテンツとなる。以前あったインターコンチネンタル杯や野球W杯、またU18などのアマチュアの国際大会が台湾で多く開催されるのも、そうした背景に依るところが多い。

 台湾球界の関係者はいう。

「正直言って、赤字でのスタートです。黒字になるに越したことはないけれど、儲けまでは考えていない。それでも毎年続けていくにはどうしたらいいか」

 スポンサーが付く年、そうでない年とまだ国内でも認知度を上げていく必要がある。まさに試行錯誤の連続だ。とはいえ今年は、日本と米国のアマチームから来年参加の打診が来ているという。「チーム数が多くなるのはプラスマイナスあるので手放しでは喜べませんが、広く浸透してくれているのだと考えると、嬉しい反応ですね」(同・台湾球界関係者)。

 また今オフは、合同トライアウトも開催された。これは台湾プロで自由契約となった選手のリトライはもちろん、海外の選手にも門戸を開き、第1回目となる今年は、全受験者27名のうち、13名が日本人という形になった。こちらもトライアウトではあるものの、海外に台湾プロ野球の認知度をアピールする一助としての意味もある。

 「台湾のプロ野球チームの場合、どのチームも組織は小さく、日本ほど編成部門に力を入れられない。海外の選手を見る機会としては、日本の合同トライアウトにも関係者が派遣されたり、一時期はアメリカで開催したこともありました。しかしなかなか継続できない。そこで今回、合同トライアウトを実施するにあたり、外国人選手も招こうということになったんです」

 ただ台湾プロ野球のレベルも、低くはない。外国人選手として毎年、海を渡ってくる選手の中にはメジャー経験者も多い。日本人選手としても、なまじの偏見、先入観で「日本でダメなら台湾でも」などという意識では、通用しない。

 「それでも、毎年実施できるようになれば、徐々に知名度も浸透し、採用されていく選手も出て来ると思います。今年も即合格ではないが、春季キャンプの招待選手がいるとも聞きます。こちらもWリーグ同様、数回で終わるのではなく、いかに継続させていけるか。それが重要だと思っています」

 1月、2月になれば韓国の2軍チームやアマチームが春季キャンプを張る台湾。温暖な気候を最大限利用し、誘致にも奏功している。その流れを11月、12月にも結びつけたい。いまだ道半ばとはいえ、台湾球界の試みは興味深い。是非、成功に結びつけて欲しいと思う。

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