WBC開催地、台湾“撤退”の理由とは

 5月16日、台湾の中華民国棒球協会の要人が、来年3月に開催予定である第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)1次ラウンドの招致を断念すると発表した。日本ではほとんど伝えられていないことだが、次期WBCでもアメリカ、中米の2箇所とアジア2箇所で1次ラウンドを開催することが決まっている。日本はすでに開催権を有しており、残り「一枠」を韓国と台湾が招致していた。その一方の台湾が、ここに来て降りた。理由は、年明けにも決定されると言われていた開催地が、5月に入ってもまだ発表されないことに、台湾の球界首脳が業を煮やしたためとされている。台湾では来年、野球競技を含むユニバーシアード大会も開催予定。WBCも大切だが、これ以上待たされてはユニバの準備にも影響を及ぼすというのが降りた理由と言われる。

 ただ台湾の球界関係者の一部には、「最初からMLBは韓国でやりたかったのでは?」という声もある。理由のひとつは、近年、台湾での国際大会は多く、新鮮味が薄れた。そしてもうひとつは今年、韓国で初のドーム球場が出来たことだ。これにより、まだ厳冬である3月のソウルでも、天候に左右されることなく試合が開催できるようになった。

 これは実利のみなららず、話題性としても台湾をリードした、という指摘がある。なぜなら台湾でWBC誘致の際の“ウリ”のひとつと見られていたドーム球場は、現在、中断したまま完成のメドが立っていないからだ。

 台北市の目抜き通りに建設中だった台湾ドームは、2013年から建設が始まり、昨年末には完成の予定だった。中断の理由や背景は、ちょうど昨年の夏にも当コラムで記しているが、設計上の問題点が多数指摘を受け、設計の大幅な見直しを迫られたことが主たる理由だ。またその背後には、台北市の政争の具にされている点が見え隠れするなど、複雑に事情が入り組んでいて現地の球界関係者ですら実情が把握できていない者が多い。さらには昨年5月に市長の命で建設を中断したまま1年が経ったが、その間、なにも動きがなかった。現在のところでは市と建設業者間で取り交わした契約は解除され「取り壊しになる可能性が一番高い」(台湾球界関係者)という。こうした状況では、MLBサイドが台湾での1次ラウンド開催に躊躇いを見せても仕方がなかったかも知れない。真偽のほどは、いまだ明らかとはなっていないが。

 ただ現地を歩いてみると、「もったいないなあ」という実感だけが残る。球場自体は最寄りのMRT(新交通システム)の『国父記念館』のそばで便も極めていい。訪れたときは、外周をフェンスで囲われ工事の進捗状況は窺い知れなかったが、見上げると流線型の屋上が垣間見えた。ここで、カクテルライトの注がれる中で、台湾の選手たちがプレーする姿を思い重ねると、やはり残念さとともに「もったいない」という気持ちが先に立った。

 ショッピングモールなど商業施設も併設することになっていたが、実現すれば野球のみならず台北市の新たなランドマークとなっただろう。しかしその商業施設の併設が、当初の設計を大幅に見直すことに繋がり、防災上の欠陥が生じてしまったというのが市長ら反対派の言い分だ。そもそもこの場所は日本統治時代からのタバコ工場があった場所で、歴史的建築物も多かった。そこに球場建設ということで、環境保護団体などの反対も加わり、極めて完成困難な状況となってしまった。移築、あるいは別の場所での建設など、球界内の推進派は案を口にするが、それもまた実現性には乏しい。

 いまだMLBからの正式な開催地の概要が明らかにされてはいないものの、台湾の“撤退宣言”で、アジアの1次ラウンドは日本と韓国になったという見方が支配的だ。しかし韓国は近年、国際大会に対する関心度が球界、ファン、メディアとも薄れ気味で、いわば“内向き”。対して国際大会に常に熱心でファンの注目度も高い台湾での開催がなくなるとしたら……。

 今から気をもむことではないが、開催地決定の行く末が、アジアラウンドへの隣国の関心度に影響を及ぼさなければいいのだが、とも思う。ホント、今から心配することではないけれど。

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