林昌勇のストレートがもう一度見たい

 4月1日の開幕を前に、韓国プロ球界で大きな話題が浮上した。海外不正賭博問題でサムスンから解雇されていた林昌勇(元ヤクルト)が、KIA入りすることが28日、発表されたからだ。林昌勇にとってKIAは故郷・光州を本拠地とするチームで、前身のヘテにはプロ1年目から1998年まで5年間在籍。サムスン、ヤクルト、カブス、サムスンと渡り歩いた彼が、実に18年ぶりに故郷に戻ることになった。

 賭博問題は期せずして日本でも同様に騒がれたが、韓国では昨季後半頃からくすぶっていた。数年前のオフに、他のサムスンの投手たちとともに香港・マカオの闇賭博でバカラに数億ウォン(数千万円)を使ったことが明るみに出て、不法賭博容疑で送検されたのが昨年の11月。そのため韓国シリーズのエントリーからも外され、オフには保留者名簿からも漏れた。事実上の解雇だった。そのメンバーの中には呉昇桓(元阪神)もいた。

 年が明けて1月には、KBO(韓国野球委員会)がもし国内で球界復帰する場合にはシーズン144試合のうち半分の72試合の出場停止という措置を執った。処罰としては重いが、ルール上は復帰の余地を残した格好となった。検察からは呉昇桓とともに1000万ウォン(約100万円)の罰金刑が科せられたが、それ以上のものはなく、呉昇桓はカージナルスと契約。林昌勇も国内外含めた復帰の道を探していた。KIA復帰は、最近でも噂に流れていたが、開幕を前に正式な発表となったようだ。

 今季、40歳になる林昌勇にとって、およそシーズン半分の出場停止期間がどのように影響するかわからない。もとよりオフからは人目を避けてグアムで個人トレーニングをしていたが、実戦感覚はもちろん、身体作りも独りでどれだけできていたか。

 サムスンを解雇された年末、林昌勇はとある韓国媒体のインタビューに応じた。心境と今後を問われ、反省とともに「もう現役は無理ではないかと半ばあきらめている」と述べていた。そのとき、KIAを含め契約話がどれだけあり、またなかったのかは知らない。ただ林昌勇ほど実績を残してきた選手が、“私的不祥事”で球界から消えることは、あまりにも虚しいことだと思った。

 日本でも覚醒剤事件、賭博問題などグラウンドとは別の次元で選手が消えようとしている。それは仕方がない。救済の道をという声も一方にあるが、プロ野球のような特別な世界、恵まれた世界ゆえ“一発アウト”も致し方ないと思う。人生そのものを奪うわけではないのだから。

 ただその人格と、残してきた実績は別だ、と思う。

 まだ日本にやってくる前の林昌勇のストレートは、それは鋭いものだった。サイドから球速は150キロ近く。動かす意図がなくても、球威と回転が空気抵抗を生み出し、ベース上でバッターをあざ笑うように変化して捕手のミットに突き刺さる。韓国では「ヘビのような(蛇行を描く)直球」という異名がついた。

 結局、韓国プロ野球では15シーズンで114勝(72敗)、232セーブ、防御率3・31の記録を残した。昨季は日韓通算350セーブを達成。その数字と鮮やかな記憶は、個人から離れて評価をすべきもの。そう思っていた。

 なお、KIAとの契約における年俸は3億ウォン(約3000万円)だが、これは全額、野球発展の基金に寄付するという。出場は前述の通り72試合、およそ3カ月の出場停止措置のため、1軍マウンドは早くてもオールスター前後になると見られている。

 そのとき、林昌勇はどんなマウンドさばきを見せるのだろうか。多くは期待できない。でもだからこそ、1球でもいい。あの右打者の外角低め一杯に決まる、鋭く動くストレートが見たい。

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