台湾のドーム球場建設ストップの理由

 台湾の台北市内でドーム球場が建設中だ。今年末の完成予定で2013年から建設に入っていた。規模は4万人収容、ライブや展示場としての利用はもちろん、商業施設も併設した大型多目的球場のスタイルだ。仮称は「台北大巨蛋(ビッグエッグ)」。17年に同地で開催予定のユニバーシアードのメーン競技場にも見込まれていた、のだが…。

 実は今現在、建設がストップしている。5月に入り、台北市から「安全基準の見直し」をデベロッパー企業側に求めたためだ。市側の主張では、火災があった場合の地下の避難経路など、設計上の問題がいくつかあるのだとか。現地の一部報道によれば、市側は「改善命令が聞き入れられなければ、建設途中でも取り壊せ」という強硬姿勢だという。

 一方、ドーム球場実現を推進してきた台湾職棒大連盟(CPBL)や企業側は「市の見直しは過剰過ぎるもので、ドーム球場実現を阻みたい理由付けにすぎない」と眉をひそめる。そこには市議会や台湾政府内での「ドーム賛成派、反対派」とでもいうような面々の対立も影を落としているらしい。台湾初のドーム球場が政争の具にされている、ということか。海を挟んだわれわれ日本のファンは今、競技場建設については偉そうに、とやかく言える立場にないが(苦笑)、しかし「取り壊しもやむなし」というのは、穏やかではないというか、あまりにも残念だ。もったいない。

 台湾のプロ野球界がドーム球場を求めたのは今日や昨日のことではない。それこそプロ発足の90年には、潜在的であれ「屋根」は悲願だった。台湾の降水量は6月、7月あたりは東京の倍にもなる。台風の通過地点でもあり、降るときは激しいスコールとなって街全体を覆い尽くす。南部の台南、高雄など粘土質のグラウンドの球場は、水はけも良くないため一度、大量に降るとグラウンド全体が田んぼ状態になってしまう。

 設計上の問題もあるだろうが、雨水がグラウンドからベンチに、ベンチからロッカールームにと浸水し、選手や関係者がヒザまでズボンをたくし上げ、用具を抱えて避難するような場面にも遭遇したことがある。試合は翌日、あるいは翌々日まで中止の憂き目に遭ってしまう。日程は後ろ倒しに詰まり、当初なかった移動も増える。選手の疲労が故障につながることも少なくない。まさに台湾のプロ野球という興行は、日本以上に雨との戦いなのだ。

 試合直前の豪雨の中、連盟職員たちが整備のためグラウンドに散る姿も幾度となく見た。球場の多くが市などの公共施設のため、専門のメンテナンスを雇う余裕などない。だから田んぼ状態でも試合決行となれば、アルバイトや連盟の職員たちが総出で取り組むのだ。

 内野全体に敷いたシートを外し、ぐちゃぐちゃの部分にスポンジをあてて雨水を吸い取り、バケツに移す。裸足でバケツを両手に持ち、ベンチ横の側溝に流し捨ててはまた内野の光る部分にバケツを運ぶ職員。顔を赤土で汚し、服を汚し、土を運び込んで敷き直す職員。30分、1時間かけても、試合決行なら彼らの「仕事」は続く。

 それでも試合ができれば報われる。だが、そんな彼らの作業の最中でも、再び、スコールが降り始めたりする。裸足のまま無念そうに空を見上げる、職員の表情がいつでも目の奥に蘇る。

 ドーム球場は選手やファンのためだけにあるのではない。情緒と片付けられたらそれまでだ。でも、そんな職員たちのためにも、台湾に「屋根」が実現して欲しいと思う。たとえそれが、ただひとつであっても。

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