生活習慣の変化がもたらした球児の欠点
ここ数年、幾多のトレーニング理論が普及してきた。インターネットの発達により、さまざまな情報があふれている。アマチュア野球の現場でも、いろいろな手法を取り入れる高校、大学が増えた。その一方、“失われたもの”も少なくない。
1965年に市神港から巨人へ入団し、半世紀にわたってプロ野球界を見てきたDeNA・吉田孝司スカウト部長(69)は、アマ野球の現場を見ながらこうつぶやいた。「今の子たちは、股関節の柔軟性がない子が多いよね」。野球において、股関節は投球動作や打撃動作に重要な役割を果たしている。
下半身から生み出されたパワーを上手に、体幹を通して上半身へと渡すために欠かせないジョイント部分。ここを満足に動かせなければ、立派な下半身、上半身を持っていても100%の力がボールに伝わらない。故障するリスクも増えてくる。
ではなぜ、近年になって股関節の柔軟性が欠けていったのか-。吉田スカウト部長は生活習慣の変化を挙げる。
「昔のトイレは和式だったから自然と股関節は広がっていた。でも今は洋式がほとんどだから、それができないよね。あとダイニングテーブル。昔はちゃぶ台で畳の上であぐらを組んだり、正座をしたりね。今はそういう機会がほとんどないもんね」
半世紀前は大半のトイレが和式だったが、近年は洋式トイレが一気に普及した。漫画「巨人の星」に代表されるように、ちゃぶ台を一家で囲んで食事する風景は、現代社会においてはかなり減っている。
実際に現場を預かる龍谷大平安・原田英彦監督は「赤ちゃんのときにハイハイをしない子が増えていると聞いてます。まず体の使い方、動かし方を覚えるため」と、ウォーミングアップ時にほふく前進といった、股関節の柔軟性を高めるメニューを取り入れている。大阪桐蔭・西谷浩一監督は、冬場の強化練習でウサギ跳びや手押し車で山道を上がっていくトレーニングを取り入れている。
近年、両校の甲子園での活躍度、輩出したプロ野球選手の人数を鑑みれば、昔ながらのトレーニングが間違っていないことを証明している。またプロのスカウトが選手を見る上で、重要視しているのは“根本的な体の強さ”。どんな練習にもついていける肉体があれば、たとえ下位指名でも伸びる選手は多い。
もちろんウエートトレーニングなど、最新のトレーニング理論は必要。ただその裏で失われた大切な要素があることも、忘れてはいけない。(デイリースポーツ・重松健三)